2-12 日本最北端の堆積岩盤深部における応力分布状態の把握に挑む

−原位置と室内試験に基づいた第三紀珪質岩盤の力学モデル構築−

図2-21 原位置・室内試験による物理・力学物性の把握
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図2-21 原位置・室内試験による物理・力学物性の把握

 

図2-22 水圧破砕法による初期応力値の把握

図2-22 水圧破砕法による初期応力値の把握

 

図2-23 岩盤力学的概念モデル

図2-23 岩盤力学的概念モデル


私たちは、北海道幌延町で進めている幌延深地層研究計画の一環として、3 km×3 km程度の調査領域内で深層ボーリング調査を実施してきました。本報告では、この調査結果から、岩盤の力学的な物性分布・初期応力場の特徴を解釈して構築した力学的概念モデルについて紹介します。調査対象は新第三紀に形成された珪質岩であり、軟岩と呼ばれる強度・変形特性が小さい岩盤です。

物性分布モデルの構築では、調査領域のほぼ中央に存在する大曲断層の東側と西側の領域でグループ化し、各種室内試験及び原位置検層の結果を整理しました。図2-21は大曲断層西側についての結果を示したものです。東側の結果も含め、深度方向の密度や弾性波速度の変化は、地質構造に対応した形で深度1,000 m程度までの範囲で3つのゾーンに区分でき、断層形成時の鉛直変位を考慮して比較することで、約3 km四方×1,000 m程度の3次元的な岩盤の物性分布をボーリング孔の場所によらずに統一的に説明できることが分かりました。

図2-22は、大曲断層の西側の各孔内で実施した水圧破砕法による初期応力測定結果を示したものです。測定された水平面内最小主応力値は単位体積重量から推定される土被り圧とほぼ等しいものとなりました。また各孔とも、水平面内最大主応力値は、最小主応力値の1.20〜1.65倍の範囲にあり、その方向はほぼ東西であることが分かりました。そして、このような初期応力状態は、国内に分布するほぼ同等の密度を有する岩盤のそれと大きく異ならない条件であることが分かりました。

これらの調査結果に基づき、力学的観点から構築した研究所設置地区及びその周辺の力学的概念モデルを図2-23に示します。珪質岩の力学物性には応力レベルに応じて変化するため、各ゾーン内に程度の差はあるものの物性に深度依存性が存在することと、連続的かつ急激な物性変化領域が存在することをモデル上に表現しました。この概念モデルに基づき、今後地下施設建設に伴う空洞周辺岩盤への力学的影響予測を数値解析により実施する予定です。

また今回の調査領域は、対象岩盤が地表から深度1,000mの範囲まで珪質岩のみが分布する地質的なコントラストが小さい岩盤でした。このような岩盤の力学的調査では、物理検層のようなボーリング孔全長にわたって連続データを取得できかつ解像度が高い方法と室内試験を組み合わせて評価を実施する手法が、極めて有効であることが分かりました。