3-2 核融合炉の発電コストの低減に展望を拓く

−JT-60、核融合炉の省エネルギー運転法の開発−

図3-4 省エネルギー運転(自発電流割合75%)のときのトカマク型核融合炉における電力の流れ
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図3-4 省エネルギー運転(自発電流割合75 %)のときの
トカマク型核融合炉における電力の流れ

中性粒子入射装置の容量は、自発電流割合ゼロのときに比べて1/4倍となります。また所内率は42 %から16 %に抑えることが可能となり、効率の良いプラントになります(所内率=所内電力/電気出力)。

図3-5 高自発電流割合の維持時間の進展
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図3-5 高自発電流割合の維持時間の進展

核融合炉及びITERの高効率運転に必要な自発電流割合において、世界最長の維持時間を達成しました。

図3-6 電流分布の時間発展

 

図3-6 電流分布の時間発展

トカマク中では圧力分布に比例した自発電流が流れるため、自発電流割合が高まると凹状の分布形状となります。

核融合炉の発電コストを低減するには、プラズマの圧力を高めて核融合出力を増大すると共に、運転に要する電力(所内電力)を減らす必要があります。現在のトカマク装置の長時間運転では、プラズマの維持に必要なプラズマ電流を、高周波あるいは中性粒子ビームの入射により流していますが、この方式は大電力を必要とし所内電力の増大をもたらします。そのため、トカマク型核融合炉では、プラズマ自身が作り出す電流(自発電流)でプラズマの大部分を維持する高効率運転を行う必要があります(図3-4)。原子力機構では、これまで世界に先駆けて高効率運転の重要性に着目し、その開発を進めてきましたが、プラズマの乱れのため維持時間が制限されており、プラズマの状態(圧力分布、電流分布等)が定常状態に落ち着くまでに至っていないという問題がありました。すなわち自発電流割合が高いプラズマでは、プラズマ中の圧力の分布と電流の分布が相互に強く影響しているため、維持時間を伸ばしたときに、圧力分布や電流分布がいつまでも変化し続けてしまうのか、ある時間で定常状態になるのかが不明でした。

今回、JT-60では、その特長である多様な入射方向を有する中性粒子ビーム入射装置を活用し、プラズマの流れの分布を変化させて圧力の分布を制御する手法を開発し、プラズマの乱れの発生を回避することに成功しました。その結果、核融合炉及びITERの高効率運転に必要となる75%という高い自発電流割合を持つプラズマを、世界最長の7.4秒間(加熱パワーの入射時間で制限)維持することに成功しました(図3-5)。また、そのような高温プラズマにおいて電流分布、圧力分布がほぼ定常状態に落ち着くことを世界で初めて明らかにし、高効率運転の技術的可能性を示しました(図3-6)。これにより、核融合炉の発電コストの低減に展望が拓かれると共に、ITERで予定されている燃焼プラズマの連続運転(自発電流割合50 %程度)の高効率化を実現することが期待されます。