3-3 高温プラズマの中に絶縁体が出現

−JT-60、プラズマ電流分布の特異な性質の解明−

図3-7 トカマクプラズマにおける電流ホール

図3-7 トカマクプラズマにおける電流ホール

ドーナツ形のトカマクプラズマの中心部にプラズマ電流がほぼゼロとなる電流ホールが形成されます。

 

図3-8 電流ホールへの電場の印加

図3-8 電流ホールへの電場の印加

正及び負の電場がかかっていても電流ホールが保たれています。

電気伝導は基本的な物性の一つであり、良導体、絶縁体、半導体が知られています。プラズマはイオンと電子とから構成され、それらの相互運動により容易に電流が生成されますので良導体に属します。プラズマの電子温度が高いほど電流は流れやすくなり、1300万度で銅と同じくらいの電気伝導度になります。

JT-60では、トカマクプラズマ(図3-7(a))の中心領域において、ポロイダル方向の磁場がほぼゼロとなりプラズマ電流がほとんど流れていない領域「電流ホール」が数秒間安定に持続することを発見しました(図3-7(b))。電子温度10 keV(1.16億度)以上の超高温のプラズマが安定に電流ホール内に閉じ込められます(図3-7(c))。

本来電流が流れやすいはずの超高温プラズマの内部になぜこのような電流ホールが持続しているのかはよく分かっていませんでした。つまり、電流を流そうとする源(電場など)がゼロになっているのか、あるいは電流駆動源に抗して電流をゼロ近傍に保つ機構が働いているのか?その謎を明らかにするため、鍵となるプラズマ内部の誘導電場を正確に評価しながら、電流駆動源の増減に対する電流ホールの応答を調べました。電流ホール外部における電子サイクロトロン波による電流駆動・電子加熱の入り切りにより誘導電場を変化させると、プラズマ中心部には有限の誘導電場が発生し(図3-8(a)),プラズマの電気伝導度の理論値によると大きな電流(図3-8(b),(c)の「計算値」)が発生するはずですが、プラズマ中心部の電流密度はゼロに近いままでした(図3-8(b),(c)の「実測値」)。また、電子サイクロトロン波による電流駆動を行った場合でも、電流が流れず電流ホールが保たれました。これらの結果から、電流(及びポロイダル磁場)がいったんゼロ近傍となるとその状態を保つような何らかの機構が存在することを世界で初めて明らかにしました。これはあたかも良導体であるトカマクプラズマの中心部に絶縁体が出現したような状態です。この観測結果は、従来電流駆動源に応じて決まると思われていたプラズマ電流の分布がプラズマ全体として定められる場合があるという、トカマクプラズマの電流分布の特異な性質を明らかにしたもので、高温プラズマにおける新しい構造形成現象として注目されています。