図3-9 安全係数分布によるイオンの乱流熱輸送の違い
核融合プラズマ中ではプラズマの圧力勾配をエネルギー源として乱流が発生し、それによって熱や粒子が損失しプラズマ閉じ込めが低下するということがありま すが、プラズマの安全係数分布(電流分布)をうまく制御すると閉じ込めが良くなることが実験的にわかっています。このプラズマ閉じ込め改善のメカニズムが 明らかになれば、さらなる閉じ込め改善、ひいては経済的な核融合発電につながります。
これまでの理論・シミュレーション研究により、プラズマ内の微視的な乱流が非線形的に帯状のプラズマ流 (帯状流)を生成し、その帯状流が乱流を抑えることが知られています。この帯状流は木星大気の帯状構造や地球のジェット気流と共通性があります。原子力機構のJT- 60などのトカマクプラズマ内にできる帯状流には、
@時間的に変動しない静的な帯状流
@時間的に振動する帯状流
の2種類が考えられ、一般に、安全係数が低い領域では静的な帯状流が生成されやすく、安全係数が高い領域では振動帯状流が支配的となります。
数値トカマク実験(NEXT)研究では、イオン温度勾配に起因する微視的乱流のシミュレーションを行い、安全係数分布の違いによる帯状流の性質変化を利用して乱流輸送が制御できる可能性を示しました。
図 3-9は、安全係数について、分布の 形は変えずに、大きさだけを変えたときのイオンの乱流熱輸送を調べたものです。安全係数が高いときはプラズマ全体にわたって振動帯状流が支配的になってい ます。振動帯状流の乱流抑制効果はそれほど強くないので、乱流による熱輸送は広い範囲で活発です。ところが、安全係数を低くしていくと、安全係数が最小と なる付近で振動帯状流が減衰し、代わりに静的帯状流が支配的となります。静的帯状流は効果的に乱流を抑制するので、乱流熱輸送が減少します。一方で安全係 数が最小となる半径よりも外側では、依然として振動帯状流が支配的で乱流熱輸送は大きいままです。
このように帯状流の性質の変化はイオンの乱流輸送に大きな影響を及ぼし、帯状流の性質を変える手段として安全係数分布が有用であることが明らかになりました。