図3-10 イメージングボロメータ
図3-11 トカマクのドーナツ1/4周分を捉える
ボロメータとは、プラズマ中の不純物や水素が発する放射パワー(電力)を薄膜で受け、その温度を検知する測定器です。従来は、受光膜の裏に細い抵抗線を貼付け、抵抗値が温度によって変化する性質を利用した抵抗型ボロメータが広く使われてきました。しかし、この方式は大きなプラズマを見るのに沢山の検出器や電気回路を必要とする欠点があります。最近は赤外カメラの性能も良くなったので、受光膜の温度を電気的に検出するのではなく、真空窓の外から直接赤外カメラで計測することが可能になりました。これがイメージングボロメータです。1台で抵抗型ボロメータ百個分相当の視野も取れますが、ITERなどで使うには、急な圧力変化に薄膜が耐えるか?中性子の照射下でも測定できるか?なども確かめておかなくてはなりません。また測定しているのは薄膜の温度なので、膜の各点の熱伝導率などを使って放射パワーに換算する必要があります。窓の外から薄膜にレーザーパルスを照射し、輝点の広がりや減衰時間を測定して換算に必要な物性値を求めます。図3-10(2)はJT-60トカマクに取付けた赤外イメージングボロメータです。広い視野が取れる特長を生かして、図3-10(1)のようにドーナツ状のプラズマを斜上から薮睨みする視野にしました。厚さ2.5ミクロンの受光膜はこれ迄3年、様々なトカマク実験に耐えています。最も強い放射が観測されるのは、プラズマが不安定になって瞬時に消滅するディスラプションの時で、図3-10(3)はその瞬間の膜の温度分布です。高温プラズマが強く輝く巨大なドーナツ状の発光体になった様子が分かります。ドーナツの太さは一様ではなく少し歪んでいるようにも見えます。一方、普通のトカマク運転では、ダイバータと呼んでいるプラズマを取り巻く磁力線の終端部で一番強い放射が観測されます(図3-11)。最近シールドやコンピュータを改良して加熱パワーの大きな重水素実験でも測定できるようになりました。ダイバータに沿ってリング状に放射しているのが分かります。直径6mもの大きなドーナツの1/4周分のプラズマ放射が一目で捉えられているわけです。このような測定は今迄他に例がありません。これ迄ドーナツの環に沿って必ずしも一様に放射していないのじゃないか?とも云われていましたが、この方法で実際にそれが直接確かめられます。この研究は科学研究費補助金の支援を受け、核融合科学研究所との共同研究として行っています。