図4-28 二重層ターゲットの概念図
図4-29 マルチパラメトリックシミュレーションの結果
レーザーの強い光を利用した加速方法は、通常の大型加速器に比べて加速する能力が著しく高いため、既存の施設より格段にコンパクトなもの(大きさで、1/10〜1/100)にできるという魅力を有しています。このため今日世界中でペタワットに迫る大出力レーザーにより、小型のがん治療装置等を目指した陽子加速実験が精力的に行われています。しかしながら、レーザーパラメータやミクロン程度の厚みのターゲットのデザインなどの最適条件を実験研究のみで見つけるのは、非常に困難です。
そこで本研究では最適条件を見つけるためのシミュレーションプログラムを開発し、原子力機構が保有するスーパーコンピュータを用いて最適なレーザー照射条件を克明に調べました。レーザー光を陽子の発生源となるターゲットに照射したとき、発生する陽子の最大エネルギーを予測し、それがレーザーパルスやターゲットにどのように依存するかを探りました。
図4-28は、計算に用いた二重層ターゲットの概念図を示します。二重層ターゲットは、金属等薄膜ターゲットの裏面に軽量(低原子番号(Z))物質をコーティングしたもので、高エネルギー電子の発生と静電場の生成に伴い、低Z物質(ここでは陽子)が効率よく加速されます。発生する陽子ビームは指向性がよく、準単色のエネルギースペクトルを有します。エネルギー広がりはコーティングの厚さに比例し、レーザーパルスのエネルギーや形状(パルス幅)、ターゲットパラメータを変えることにより、陽子ビームの制御が可能となります。
図4-29は、レーザー強度及びターゲットの厚さと個数密度をパラメータとするマルチパラメトリックシミュレーションの結果を示します。達成される陽子のエネルギー(の等高線)をレーザーの強さ(a)とターゲットの面密度(σ)すなわち厚さと個数密度の積に対して描いたものです。これにより、ある陽子エネルギーを得るのに、σを適切に選ぶことによりaを最小化できること、また、その比例則はσ=σopt〜3+0.4aとなることを見いだしました。
この成果により、陽子エネルギー発生のトリガーとなるレーザー強度を低くできることから、レーザー駆動がん治療装置の実現に一歩近づいたことになります。原子力機構では医学界とも連携し、より一層合理的な実験パラメータを求める研究を進め、小型のがん治療装置を目指したレーザーシステムの開発を進めます。本研究は一部、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業より資金を得て行ったものです。