図4-27 走査トンネル顕微鏡で見たGe(111)表面単位格子上の
Geナノクラスターと、アニールによるナノクラスターの結晶化
量子ドットは電子の波長と同じくらいの10 nm程度の小さな塊であるため、電子はちょうどドットの中に閉じこめられてしまうことが知られています。また量子ドットサイズを変えることにより電子のエネルギー状態を簡単に変えることができることから、将来、電子を1つ1つ制御する単一電子トランジスターや、量子ドットレーザーなど様々なナノ構造デバイスへの応用が期待されています。これまでSiとGeとの格子定数のミスマッチを利用して、ひずみの力でピラミッド状の量子ドットを作製する手法がよく知られています。しかしこの場合、デバイス特性を決めるドットサイズやその密度、更にはドットを任意に配置することが難しいので、均一なサイズをもつナノドットの作製や自己組織化による配置を可能とするナノ構造創製技術が求められています。量子ドットが成長した後に、そのサイズや位置を変えることは困難であるため、私たちは成長初期過程に現れる量子ドットの前駆体であるSi、Geナノクラスターに注目し、そのサイズや位置を自在に制御することが重要であると考えました。そこでまず量子ドットサイズを決定するナノクラスターに内在する原子数の計測を試みました。
ナノクラスターは、図4-27左図に見られるように表面単位格子の半分(赤色で示した三角形)の領域内に配置されるので、クラスターを構成する原子数もその表面単位格子によって変えることができる可能性があります。しかしそのクラスターに内在する原子は一つ一つ識別できないために、構成原子数を評価することができませんでした。そこで私たちはナノクラスターを加熱により結晶化させて観察することを考えました。図4-27右図は、アニールによりナノクラスターを数多く集合させ、一つに結晶化させた結果を示します。直接原子を識別することが可能となり、原子数が計測できる状態に世界で初めて成功した例です。図4-27右図の表面単位格子の半分(赤色で示した三角形)の領域には6つの原子が識別されますが、この結晶構造はよく知られていて、更に表面下層には45個の原子が存在していることが知られています。集積したナノクラスターの数は簡単に加熱前に数えることができますので、一つあたりのナノクラスターに内在する平均原子数を見積もることが可能になったわけです。更に表面構造、元素の違いによるナノクラスターを構成する原子数への影響を評価するために、表面構造の異なる基板表面を新たに作製しました。それらの結果、原子を識別できなかった図4-27左図に見られるようなナノクラスターの中には平均8個の原子が存在し、SiやGeの元素の違いによる差は存在しないことが分かりました。また、基板の表面単位格子の大きさを半分にすることによりナノクラスターを構成する原子も半数にすることができることも見いだしました。これにより、定量化されたナノクラスターを原子供給源として、量子ドットサイズの制御を可能とする展望が拓けました。