4-11 放射光X線によって結晶表面構造を原子レベルで覗く

−放射光を用いたガリウムヒ素半導体成長モニターの開発−

図4-24 分子線薄膜単結晶成長装置(MBE装置)とX線回折計とを一体化した装置

図4-24 分子線薄膜単結晶成長装置(MBE装置)と
X線回折計とを一体化した装置

 

図4-25 結晶成長中ガリウムヒ素表面構造

図4-25 結晶成長中ガリウムヒ素表面構造

従来法(a)では、原子Aと原子Bがガリウム原子なのかヒ素原子なのかが区別できませんでしたが、本手法(b)では可能となりました。

図4-26 回折強度のX線エネルギー依存性

図4-26 回折強度のX線エネルギー依存性

赤線は原子A、Bがそれぞれガリウム、ヒ素の場合、緑線は、両原子ともヒ素の場合に期待される回折強度の変化で、実験結果(黒丸)は、赤線によく一致しています。

ガリウムヒ素は、ガリウムとヒ素とが結びついてできた化合物で、半導体としての性質を持ちます。同じ半導体のシリコンと比べて、高周波信号を処理する能力や、電流を光に変換する効率に優れているので、携帯電話などの通信機器や、光通信用の素子に使われており、高度情報化社会を支える材料です。これらの応用に必要な半導体素子は、分子線薄膜単結晶成長法(MBE法)、有機金属化学気相蒸着法(MOCVD法)などによって、基板の上に原子を1層ずつ制御しながら積み上げることで作製されています。これらの半導体作製技術にとっては、成長中の表面構造を知ることがとても重要です。

表面構造を正しく観察するために、私たちは、図4-24に示すような、薄膜単結晶成長装置(MBE装置)とX線回折計とを一体にした装置を開発し、SPring-8の原子力機構ビームラインBL-11XUに設置しました。表面原子からのX線の散乱は非常に弱いのですが、SPring-8の大強度X線を使うことで、結晶成長と同時にX線測定をすることも可能になりました。更に、SPring-8のもうひとつの特長である波長可変性の利用によって、結晶表面の原子の配列だけでなく、原子の種類も決定できるようになりました。

図4-25(a)は、今回の研究で調べたガリウムヒ素表面を表面垂直方向から見たものです。ガリウム原子とヒ素原子のまわりの電子数はそれぞれ31と33で非常に近く、従来の表面構造解析の手法では、両者を区別することが困難でした。実はこの図では、それぞれの原子を電子の数に比例した大きさの円で描き分けているのですが、目ではまず区別できません。これに対し、本研究では、図4-26に示すように、X線の波長を変えながらX線回折強度を測定し、表面にガリウム原子とヒ素原子が存在する場合(赤線)、ヒ素原子だけが存在する場合(緑線)を仮定した計算と比較しました。実験結果は前者に一致し、図4-25(b)のように、原子の種類をはっきりと区別することができました。

X線は物質を透過する能力が高いので、産業界で多く利用されている、濃厚なガス雰囲気での有機金属化学気相蒸着法(MOCVD法)にも適用可能です。本手法により、半導体製造過程をより精密に制御できるようになり、半導体素子の性能向上や、新素子の開発の迅速化が期待できます。