4-16 高出力パルス中性子源の開発

−陽子ビーム励起圧力波によるマイクロピット形成機構の解明−

図4-36 ピッティング損傷形態

図4-36 ピッティング損傷形態

陽子ビームMW級入射時に生じると想定される衝撃圧を水銀に106回繰り返し負荷した後にレーザー顕微鏡で計測されたピッティング損傷の3次元イメージと損傷面の断面写真。ピット底にき裂が確認できます。

図4-37 気泡崩壊によるピット形成機構に関する解析(a)水銀キャビテーション気泡崩壊挙動を捕らえた超高速度撮影

(a)水銀キャビテーション気泡崩壊挙動を捕らえた超高速度撮影

図4-37 気泡崩壊によるピット形成機構に関する解析(b)マイクロジェット局所衝撃

(b)マイクロジェット局所衝撃

 

図4-37 気泡崩壊によるピット形成機構に関する解析

超高速度撮影から推定された気泡崩壊に伴うマイクロジェット吹き出し速度(約200 m/s)を負荷条件とした衝撃解析は観測されたピット形態を再現しました。

J-PARCの物質生命科学実験施設では、未だ世界に例のないMW級の核破砕パルス中性子源を用いた革新的研究が展開されます。大強度陽子ビームの入射標的として核破砕反応により中性子を発生するターゲット材には、熱除去の観点から有利な液体水銀を使用します。水銀ターゲットの耐久性の向上及び高出力化には、陽子ビームが水銀に入射される時に生じる衝撃圧によりターゲット構造体に形成される損傷(ピッティング損傷)の軽減が最大の課題です。衝撃圧を電磁力により水銀中に負荷することで形成したピッティング損傷の3次元イメージとピット断面の観測結果を図4-36に示します。材料表面層の壊食とピット底近傍に生成したき裂が確認でき、このような損傷によりターゲット容器の材料強度は著しく低下します。これらの材料損傷データに基づいた定量的な寿命評価を行い、材料的な観点からは、表面硬化処理により限界衝撃圧(入力ビームパワーのピッティング損傷に対する限界値)がある程度増加することが分かりました。この知見を基に、ピット形成に対する耐性と疲労強度を更に増加できる、プラズマ窒化と浸炭技術を融合することでなだらかに表面硬度が変化する階層型表面処理技術(特許申請中)を新たに開発し、実機ターゲットに適用しました。これにより、損傷が顕著になるまでに要する潜伏期間に受け入れることができるパルス数を約一桁(106から107回に)延ばすことができました。

更に、ピッティング損傷を誘発するキャビテーション気泡崩壊機構の定量化研究として、電磁衝撃圧実験装置により高精度な単一パルス負荷を行い、固体/液体水銀界面における微小気泡の発生と崩壊挙動を超高速度カメラにより初めて観測しました(図4-37)。これにより、衝撃圧により発生した微小気泡の崩壊で誘発されるマイクロジェットの吹き出し、及びそれに続く衝撃波発生と伝播過程を明瞭に確認できました。この観測結果から推測したジェット衝突速度を入力条件とした水銀液滴と固体材料との衝突解析は、ピット深さと径の大きさを良く再現できることを確認しました。

次の課題は、いかに衝撃圧の低減を図るかです。これに関しては、水銀に微小ヘリウム気泡を注入し、そのクッション効果を狙った衝撃圧低減によるターゲット容器寿命延伸の技術開発を、国内外の大学・研究機関とも協力して精力的に取り込んでいます。