図4-8 タングステン薄膜の着色性能と構造
図4-9 作製した光学式水素検知器の構成と検証結果
クリーンエネルギー源の水素は爆発下限濃度が約4vol.%と低いため、その製造、貯蔵、輸送、あるいは消費を安全確実に行うには、安価に提供できる水素の漏洩検知技術の開発が不可欠です。その一つに、引火の原因となる電気を使用せず、加熱を必要としない水素検知素子を使用した光学式水素検知器が提案されています。水素検知素子は、透明基板、酸化タングステン薄膜(着色層)、パラジウム(触媒層)の積層構造から成ります。酸化タングステン薄膜は、パラジウムを介した水素の吸着により着色(ガスクロミック現象)します。水素検知素子からの透過光が、この着色により減少する過程をモニターすることにより、水素の検知が行われます。米国エネルギー省で提唱されている水素検知器の性能基準では、1秒以内の応答速度が要求されていますが、これまでの酸化タングステン薄膜は、水素による着色に分単位の時間を要していました。そこで本研究では、基板温度と雰囲気ガスを成膜パラメータとする高周波スパッタリング法により、着色時間の短い酸化タングステン薄膜の作製条件を探索しました。X線回折測定により酸化タングステン薄膜を調べたところ、着色時間が短い素子ほど、配向した結晶構造を待つ酸化タングステン薄膜から構成されていることが、はじめて分かりました(図4-8)。そこで、酸化タングステンの結晶配向膜を使用した素子を、光ファイバーと組み合わせて水素検知器を試作し、1 %水素による室温での性能を検証したところ、1秒以内で検知できました(図4-9)。以上の結果より、作製した水素検知器は、光ファイバー網を活用して、広範囲にわたる水素配管や水素製造、あるいは貯蔵施設などを一箇所で集中監視できる、安価で安全な水素検知システムへと発展する可能性を持っており、本成果はその実用化に道を開きました。