4-7 植物は葉や茎の細胞内のDNA量を増やすことで紫外線に強くなれる

−植物の新たな紫外線耐性機構の発見−

図4-16 紫外線耐性変異体の紫外線環境下での生育量及び細胞核あたりのDNA含量の分布

図4-16 紫外線耐性変異体の紫外線環境下での生育量及び細胞核あたりのDNA含量の分布

紫外線耐性変異体では、DNA含量が多い細胞の割合が増えており、その結果、遺伝子のスペアが増えたために、紫外線に強くなったと考えられました。2Cは2倍体の核のDNA量を示します。

図4-17 2倍体と4倍体の紫外線感受性の比較

図4-17 2倍体と4倍体の紫外線感受性の比較

野性株(2倍体)に比べてDNA量が2倍になっている4倍体が、紫外線に強いことから、DNA量が紫外線耐性に重要な因子であることを示しています。

光を利用する植物にとって、紫外線は避けることのできない環境因子です。紫外線は、作物の減収や葉焼けを引き起こすなど、植物の生長に重大な影響を及ぼしており、更に近年では、オゾン層の破壊により紫外線量の増加が危惧されています。

一方、植物は紫外線に負けないように様々な機能を備えています。アントシアニンなどの主要なフラボノイド色素は、紫外線をよく吸収し、遺伝情報の担い手であるDNAにとどく紫外線の量を減らしています。また、紫外線によって生じたピリミジン2量体などのDNA損傷を効率的に修復する仕組みも備えています。しかし、これだけでは植物の紫外線耐性機構が十分に説明されたとは言えず、まだまだ未知の因子が存在するだろうと考えました。

私たちは、イオンビームを用いて、通常よりも紫外線に強くなったシロイヌナズナの突然変異体を獲得することに成功しました。この突然変異体は、紫外線環境下で育てた場合に、野生型よりも2倍以上生育量が多く、紫外線に強くなっています(図4-16)。更に、その原因となる遺伝子を同定して機能を調べた結果、今まで知られていなかった仕組みによって紫外線に強くなっていることがわかりました。

この突然変異体では、UVI4と名づけた遺伝子に突然変異が起きたために、葉や茎の細胞核に存在するDNA量が増えていました(図4-16)。その結果、遺伝情報を持つDNAのスペアが増えたために、強い紫外線下でもDNAの損傷を補うことができ、通常よりも紫外線に耐えることができると考えられました。この考えのもとに、野生株(2倍体)に比べてDNA量がもともと2倍になっている4倍体の感受性を調べたところ、紫外線に強いことがわかりました(図4-17)。

これらの結果から、細胞核内のDNA量を増やすことが植物の紫外線耐性を強化する仕組みの1つであることが明らかになりました。このことは、植物が紫外線に対して、どのように適応してきたかを理解する上で重要な手がかりを与えるとともに、シロイヌナズナだけでなく一般の植物でも、細胞核のDNA量を増やすことで、紫外線に対して強くすることができる可能性があり、ムギやダイズなどの作物増産や葉焼けの防止などに役立てることが期待できます。