4-8 白血球を増殖させる医薬品の作用機構を解明

−ヒト顆粒球コロニー刺激因子と受容体の複合体の立体構造解析−

図4-18 ヒト顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)と受容体(GCSF-R)の複合体の活性構造

図4-18 ヒト顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)と
受容体(GCSF-R)の複合体の活性構造

左図は複合体を側面から、右図は上側から見た図です。2分子のGCSF(赤、橙)が2分子のGCSF-R(水色、緑)と2箇所(siteII及びIII)で結合することにより、2:2複合体を形成します。

図4-19 ヒトGCSFによるヒトGCSF-Rの活性化

図4-19 ヒトGCSFによるヒトGCSF-Rの活性化

2分子のGCSFによって2分子のGCSFRが会合すると、白血球細胞(顆粒球)を増殖させるシグナルが発信されます。

白血球を増殖させる医薬品である顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)の作用機構を立体構造解析によって詳細に解明することに成功しました(図4-18)。GCSFは約180アミノ酸からなるタンパク質で白血球の一つである好中性顆粒球のコロニー形成を特異的に促進する因子です。その特徴的な機能から、GCSFは悪性腫瘍の患者さんに対する化学療法や放射線治療後の顆粒球減少症に対する医薬品として既に臨床応用されています。2002年度の国内出荷額は536億円、世界的にも約4,500億円の市場規模を有する大型バイオ医薬品です。GCSFは細胞表面でその膜貫通型受容体(GCSF-R)の細胞外領域と特異的に相互作用することにより細胞内にシグナルを伝達し、上記機能を発現します。このように基礎科学的また産業応用的にも重要なタンパク質であるにもかかわらず、これまでヒトGCSF/ヒトGCSF-R複合体の詳細な活性状態は不明なままでした。

私たちはこれまで難しかったヒトGCSF-Rの細胞外領域の大量調製に成功し、様々な熱力学的手法による分析によって、GCSFとGCSF-Rが2:2の結合比で複合体を形成することを見いだしました。引き続き、取得したGCSF/GCSF-R複合体の結晶化に成功し、X線結晶構造解析を実施し、GCSFとGCSF-Rの2:2複合体の分子配置や分子認識に直接かかわる各原子を同定することができました(図4-18)。この構造から2分子のGCSFが2ヶ所のインターフェイス(siteIIとsiteIII)を介して2分子のGCSF-Rを会合させる活性化メカニズムが解明されました(図4-19)。

本研究で明らかにした複合体の立体構造は、受容体の活性化に必要な部位の原子情報を含んでいるので、GCSF活性を有する低分子化合物の効果的な設計が可能になるかもしれません。バイオ医薬品の低分子化は、薬価軽減・経口投与可能という観点から様々な疾患の治療に待ち望まれています。立体構造情報を利用したGCSFの低分子化の試みは、その扉を開くものとして期待されています。

なお本研究において、複合体の結晶化研究はキリンビール株式会社と独立行政法人宇宙航空研究開発機構及び宇宙環境利用推進センターが推進する先導的応用化プロジェクトにおいて実施された共同研究の成果の一部です。また複合体の立体構造研究は原子力機構とキリンビール社との共同研究の成果であり、原子力機構は、文部科学省のタンパク3000プロジェクト及び科学研究費補助金(基盤研究(C))による支援を受けました。