10-2 原子力プラントの揺れをとらえる

−スケールが大きく異なる波長を同時に扱うための振動解析技術−

図10-4 3次元仮想振動台

図10-4 3次元仮想振動台

計算機内にプラント全体の数値モデルを作成し、プラントに生じる様々な事象の再現を可能とする技術の開発に取り組んでいます。

 

図10-5 接合部における波の反射と透過

図10-5 接合部における波の反射と透過

接合部などの不連続な箇所で発生する波の反射や透過の繰り返しが、構造物の振動現象につながります。これらの波のシミュレーションを可能とすることが、振動の低減策や防止策につながります。

原子力プラントの安全保守性を従来以上の高い信頼性で検証するための研究開発は、極めて重要な課題として産業界と連携し社団法人日本原子力学会の特別委員会で検討を進めています。本来、課題解決のためには、実際の原子炉やプラントを用いた実環境・実条件下における保全管理実験や経年運転検証実験が必要となります。しかし、これらの実施には膨大なコストと長い年月、そして時には高い危険性を伴います。そこで、私たちは、計算科学技術を活用した安全かつ効率的な原子力施設の保全性評価の試みを開始しました。その第一歩として、震動台では扱えない原子力発電プラント全体規模の三次元振動シミュレーションに関する研究開発に取り組んでいます。「3次元仮想振動台」と呼ばれるこの技術は、計算機内にプラント全体の三次元モデルをデジタル化し、地震や地盤応答に関する既存技術と組み合わせることで、プラントに生じる様々な事象を再現しようとするものです(図10-4)。この3次元仮想振動台を実現するために不可欠な技術の一つとして、振動解析における複雑な構造物の共振を精度良く計算することが挙げられます。

共振とは、地震などによる振動エネルギーが構造物内を波として伝播するとき、接合部などの不連続な箇所で波の反射や透過が発生し、この現象が多数の接合部で繰り返されることで、エネルギーが揺れやすい箇所に集中し、揺れが増幅していく現象です(図10-5)。共振は、構造物の全体的な揺れから部材の一部の局所的な揺れまでの広い範囲で生じ、最悪の場合、構造物は数秒で倒壊に至ることがあります。本研究では、計算科学により共振状態を分析し、複雑な構造物の共振を低減するための根拠を明らかにすることで、原子力施設の安全性を向上することを目的としました。

従来の計算科学におけるシミュレーションでは、全体的な揺れは扱えましたが、反射してくる波をうまく扱えなかったため局部的な揺れを十分な精度で評価することができませんでした。そこで、全体から局部までの揺れを扱える波動伝播シミュレーション手法の確立に取り組みました。配管系構造物を対象とし、提案手法を適用したところ、全体的な揺れとともに、従来は扱えなかった局部的な揺れを扱うことが可能となり、原子力施設を構成する実構造物への適用の可能性を見いだすことができました。これにより、複雑な構造物の共振を精度良く計算することが可能となり、また、共振を低減するための根拠を明らかにすることが可能となりました。