1-1 核データの複雑な構造を正確かつ合理的に処理

−超微細群計算と詳細群計算を併用した高速炉用格子計算コードの開発−

図1-2 238U捕獲断面積のエネルギー依存性(抜粋)

図1-2 238U捕獲断面積のエネルギー依存性(抜粋)

 

図1-3 「常陽」MK-I燃料集合体の中性子スペクトルの解析精度

図1-3 「常陽」MK-I燃料集合体の中性子スペクトルの解析精度

集合体を無限に並べた体系の中性子スペクトル(図上)について、参照値(連続エネルギー・モンテカルロ計算値)との差異を従来の結果とSLAROM-UFの結果間で比較しています(図下)。SLAROM-UFを使用することによって参照値とほぼ一致するまでに精度が向上しています。

 

図1-4 臨界実験でのNaボイド反応度の解析精度

図1-4 臨界実験でのNaボイド反応度の解析精度

ロシアの高速炉BN-600を模したBFS臨界実験の解析結果です。SLAROM-UF使用時は従来の結果に比べ、解析精度のボイド領域依存性が著しく低減し、 (計算値/ 測定値)の評価精度も向上しています。

高速炉の炉心解析では100eV〜数MeVのエネルギーを有する中性子による核反応の取扱いが重要です。そこでは中性子の反応確率(断面積)がエネルギーに対して激しく変動する(共鳴を有する)ため(図1-2)、それをいかに正確に考慮するかがポイントになります。

従来の方法では全エネルギーを70群に分割し(図1-2のエネルギー範囲は第36,37群を示している)、共鳴による影響をあらかじめテーブル化することによって考慮していました。しかしながら、この方法ではNaボイド反応度で数十%もの誤差が生じ、また、「もんじゅ」等の特定の炉に最適化しているため、大きさや燃料,冷却材が異なる炉心に対する適用性が課題でした。

エネルギーを連続的に扱う計算コード(連続エネルギー・モンテカルロコード)も開発されていますが、確率論的な手法であるため、ボイド反応度などの微小量の解析や物理現象の詳細分析には適していません。

そこで決定論的な手法で連続エネルギー相当の精度を合理的に達成するコードを開発しました。

本コードは超微細群(約10万群)と詳細群(最大900群)の2種類の計算を組み合わせることによって計算時間と解析精度の両立を図っています。超微細群計算は共鳴が顕著な約50keV以下のエネルギー領域を対象にし、その群構造は元の核データを忠実に再現できる詳細度を有しています。弾性散乱による減速と吸収反応のみに特化することにより中性子束計算を効率的に実施し、当該領域の実効的な断面積を詳細群構造で作成します。一方、詳細群計算は全エネルギーを対象にし、群構造は50keV以上に存在する構造材核種(鉄など)の共鳴を精度良く扱える程度の詳細度を有しています。計算自体は従来の方法と同じですが、超微細群計算で求めた実効断面積を反映することによって合理的に精度の向上を図っています。

開発したコードSLAROM-UF(Ultra Fine)の性能を図1-3及び図1-4に示します。SLAROM-UFを使用することにより、連続エネルギーモンテカルロ計算値相当の結果が得られること、実験解析の結果も従来の70群構造のものに比べて顕著に改善されることが確認できます。

SLAROM-UFには従来の70群構造に基づく計算機能も備わっており、機能をフル活用した詳細解析からパラメータサーベイなどの簡易計算まで用途に応じて使い分けることができ、高速炉の実用化概念検討や「もんじゅ」の解析等で活用されています。