2-3 地層処分容器の超長寿命化の可能性

−低酸素濃度環境における銅オーバーパックの腐食挙動−

図2-8 純銅の腐食に及ぼす硫化物濃度の影響

図2-8 純銅の腐食に及ぼす硫化物濃度の影響

腐食量は硫化物濃度が高いほど大きくなります。試験後試験片の外観を見ると、硫化物濃度が高いほど黒色の腐食生成物が厚く形成されています。この腐食生成物はX線回折より、Cu2Sであることが確認されています。

 

図2-9 腐食量評価モデルの模式図と硫化物濃度に対する銅オーバーパック推定寿命(貫通までの期間)

図2-9 腐食量評価モデルの模式図と硫化物濃度に対する銅オーバーパック推定寿命(貫通までの期間)

緩衝材からオーバーパック表面への硫化物供給量を腐食量に換算し、腐食量が10mmに達した時点で貫通すると仮定しました。硫化物濃度が0.0006M以下であれば10万年以上の寿命を達成できる可能性があります。

オーバーパックはガラス固化体を収容する処分容器のことで(図2-1)、少なくとも1000年間、地下水とガラス固化体の接触を防ぐ機能が期待されています。その材料として、これまで、炭素鋼を中心に検討してきており、深部地下水環境での腐食挙動など、具体的なオーバーパック設計に反映できる知見が整備されてきました。一方、オーバーパックに対して1000年を大きく超える寿命を期待することができれば、処分システムの信頼性がより向上します。炭素鋼の場合、深部地下水環境での腐食速度は1年間に数μm以下であり、1000年間は十分に健全性を維持できると評価していますが、現時点では数万年を超えるような極めて長い寿命を期待することは困難です。そこでチタン,銅など代替材料の検討も進めています。

代替材料のうち銅は、一般的な天然水環境において、低酸素環境であれば水と反応しない、すなわち腐食しないという特徴があります。地下深部は本来、酸素濃度が極めて低い環境ですので、条件次第では半永久的な寿命を達成することも不可能ではありません。しかし、低酸素環境における銅の化学的な安定性も、硫化物(H2S,HS,S2−)が存在すると失われてしまい、激しく腐食する場合のあることが知られています。そこで私たちは硫化物による銅の腐食への影響について検討を進めています。一例として、硫化物の濃度と純銅の腐食速度の関係を実験で調べると、図2-8のように、濃度とともに腐食速度が増加する現象が確認されました。硫化物濃度が0.001M程度であれば腐食速度は1μm/年未満、単純に外挿すると1000年間でも1mm未満です。銅オーバーパックの腐食しろは数cmありますので、この程度の濃度条件であれば1000年間より長期の寿命を達成できる可能性があります。次に、銅オーバーパックがどの程度の寿命を達成できる可能性があるのか、実際の処分システムを想定してモデル計算を行いました。オーバーパックの周りはベントナイトを主成分とした緩衝材で覆われているため、硫化物は緩衝材中を移行(拡散)してオーバーパックに到達し、腐食反応を起こすと考えられます。したがって腐食速度は緩衝材中の移行速度によって制限されます。オーバーパック表面への硫化物の供給速度を腐食速度に換算して腐食量を求め、硫化物濃度とオーバーパック寿命の関係を求めると、図2-9のようになります。我が国における一般的な地下水中硫化物濃度の実測最大値は0.0003M程度ですので、この程度の濃度条件であれば数十万年の寿命を達成できる可能性があります。しかし、微生物の活動による影響など潜在的な硫化物濃度上昇を考慮すると、理論上は最大約100倍の濃度が算出され、この場合はそれほど長期の寿命は期待できません。

以上のように、銅は環境条件次第では極めて長い寿命を達成する可能性を秘めていますが、オーバーパック材料として選定する場合は地質環境条件とその長期的な変遷を十分見極める必要があります。今後も銅の腐食挙動に関する知見を拡充し、地質環境条件に応じた材料選定,オーバーパック設計,長期健全性評価に反映させる予定です。