6-3 100万Gの極限環境を利用した新技術

−超重力場(メガグラビトロニクス)を用いた新奇物質探索−

図6-6 大容量型高温超重力場発生装置

図6-6 大容量型高温超重力場発生装置

雑誌Newton 2004年11月号にて紹介されました。

 

図6-7

図6-7

(a)超重力場処理にて原子スケールで組成が傾斜したSe-Te半導体試料断面写真(b)電子プローブX線マイクロアナリシス(EPMA)による組成分析結果(c)X線光電子分光法(XPS)によるSe及びTe原子の3d電子の結合エネルギーの場所依存性(バンドギャップ値の連続的な変化)

スペースシャトルなどを利用した微小重力場環境ではマクロ粒子を均一に混ぜることができるため、均質な材料を実現する手段としての利用が考えられています。一方、100万Gレベルの極めて強い重力場下ではわずかな原子質量の違いが原子の配列や原子の拡散に大きな影響を及ぼします。私たちは、このような極限環境である超重力場を物質創成の場として利用できる可能性を模索する研究(メガグラビトロニクス研究)及び超重力場下における原子の高速沈降拡散のメカニズムの解明を目指した研究を進めています。

研究には熊本大学との共同研究にて開発した大容量型高温超重力場発生装置(図6-6)を用いています。

図6-7はSe-Te半導体に関する新奇物質の創成の例です。セレン−テルル(Se-Te)半導体は全濃度範囲で両構成元素がよく混ざり合う全率固溶体です。Se:Te=70:30at%で均質な試料を出発試料として試料温度260℃,最大重力場102万Gにて100時間の超重力場処理を施したところ、配向性のある結晶成長を伴った傾斜構造が得られました。得られた傾斜構造は、格子定数が組成に伴って連続的に変化しており、原子スケールの傾斜構造であることが分かりました。また、図6-7(c)に示すとおり、Se及びTe原子の3d電子(5/2)の結合エネルギーが組成に応じて連続的に変化しており、バンドギャップ値が場所によって連続的に異なることが分かりました(熊本大学との共同研究)。例えば、同一光源から白色光を出せる半導体などに利用できるのではないかと考えています。様々な傾斜材料創成法が報告されていますが、数10%オーダーの組成傾斜を持ちかつ原子レベルで連続的な傾斜構造を形成する方法は今のところ他に報告がありません。現在、このような原子スケールの傾斜材料における超伝導特性についても研究を進めています。その他、物質創成や物性発現以外の観点で、原子の沈降をダイレクトに利用した凝縮状態での同位体遠心分離についても予備的な研究を進めており、将来的には新しい技術として確立したいと考えています。