14-7 高速炉内で放射性物質の消滅を助ける材料を探す

−核変換用中性子減速材候補炭化ホウ素(11B4C)の中性子照射試験−

図14-14 図14-14 500℃付近で照射された(a)11B4Cと(b)10B4C

図14-14 500℃付近で照射された(a)11B4Cと(b)10B4C

(a)11B4Cペレットは、照射前の形状を保っていますが、(b)10B4Cペレットは小片化してしまっています。

 

図14-15 11B4C及び10B4C照射材の微細組織

図14-15 11B4C及び10B4C照射材の微細組織

11B4C結晶粒内には、(c)のような微小転位ループ、(d)の気泡といった照射欠陥が観察されました。粒界では(e)のような微細なHe気泡が高密度に形成しています。一方、10B4C結晶粒内では(f)のように一定方向に成長した気泡が高密度に分布し、(g)では、粒界に沿って大きく成長した気泡が分布していました。

高レベル放射性廃棄物中の長寿命核分裂生成物(LLFP)の長期保管に伴う負担は大きく、解決策としてLLFPの核変換により、半減期の短い核種あるいは安定核種にして負担を軽減しようという研究を進めています。効率的な核変換には熱中性子炉が有利ですが、高速炉の利用も検討されています。水素化物とともにホウ素-11(11B)を高濃縮した炭化ホウ素(11B4C)が減速材候補として挙げられます。高速炉では、LLFP周辺を減速材で囲んでターゲットとするなどの工夫により、LLFPを半減期の短い核種あるいは安定元素へ効率的に核変換します。11B4Cは水素化物と比べて減速能が低く、減速材増加に伴うLLFP変換効率はZrH1.6などの水素化物に比べて小さくなります。一方、熱設計上で、水素化物は高温で水素乖離が懸念されますが、炭化ホウ素は濃縮度に係らず、その融点(2350℃)付近まで化学的に安定で、ほとんど制約がありません。

水素化物や11B4Cの照射試験はフランスの高速炉Phenixで行われています。国内では中性子吸収材であるホウ素-10(10B)を濃縮した炭化ホウ素(10B4C)の照射試験実績はありますが、11B4Cの実績はありません。炭化ホウ素を照射すると含有する10Bの(n,α)反応によってHeが生成します。このHeは照射用に焼き固めた10Bを含む炭化ホウ素ペレット中に蓄積し、割れ発生要因の気泡となり、材料の安定性に対して悪影響を及ぼしますが、11Bの(n,α)反応断面積は10Bのそれと比べて非常に小さく、11B4Cペレットは10B4CペレットよりもHeの影響が小さいと考えられます。

本研究では、11B4Cを530℃,照射量1.9×1026n/m2(E>0.1MeV)で、10B4Cを800〜900℃,照射量3.1×1026n/m2(E>0.1MeV)でそれぞれ照射試験を行い、11B4Cの減速材としての特性を検討しました。10B4Cは、照射温度に依存して割れやすさが異なります。700〜800℃が最も割れにくい温度とされており、それより低温でも高温でも割れやすくなります。そこで11B4Cは、10B4Cが割れやすいと予想される530℃で照射しました。照射済試料は非常にもろいため、衝撃を与えないよう十分に注意し、イオンミリング法を用いて慎重に微細組織観察用に薄膜化しました。

図14-14は、照射後の11B4Cと10B4Cの外観を、図14-15は 11B4C及び10B4Cの粒内と粒界の微細組織を示したものです。11B4Cと比較して、10B4Cでは大きく成長した気泡が粒内で均一かつ高密度に存在し、粒界では粒内よりも大きな気泡が分布していました。11B4Cでの生成He量は、10B4Cの約1/100と推定され、気泡の成長は遅く、核生成頻度も低いと考えられます。

以上から、高温使用環境下での減速材利用を考えた場合、11B4Cは安定であり、有望な材料であることが確認されました。今後は、水素化物と11B4Cで想定される使用温度域での11B4C微細組織観察を行う予定です。