図2-5 約1500年間埋設されていた鉄ていの出土状況と断面の写真(奈良県大和6号墳)
図2-6 鉄器の腐食データが示す1000年後のオーバーパック腐食予測値の保守性
地層処分に用いる人工バリアの金属材料(オーバーパック)の候補の一つである炭素鋼には、1000年以上の長期健全性が期待されています。処分場環境を模擬した低酸素雰囲気での数年間の室内腐食実験を通じて、これまでに1000年間の最大腐食深さは31.8mm(軟岩系岩盤/竪置きの場合)と推定されています。この長期腐食量を傍証するデータとして数100年から1000年以上埋没していた考古学試料の鉄器に着目しました。鉄器の出土状況や埋設環境を評価し、その中から地層処分環境に類似した低酸素雰囲気で腐食した鉄器についての貴重なデータを取得することができたので紹介します。
島根県出雲大社町の出雲大社境内遺跡から、粘土質土壌に覆われて出土した鉄器(チョウナ)が2点発掘されました。同試料について腐食量の調査を実施しました。地層処分ではオーバーパック周囲を粘土で覆う方法が提案されており、本試料は処分環境と類似したものです。埋設期間は約750年です。
奈良県の大和6号墳からは多数の鉄器、特に872枚の大小の板状の鉄(鉄てい)が出土したことで有名です。その一部20枚の鉄ていを調査しました。埋設環境は残念ながら記録がないので、ほかの遺跡調査から推測すると木棺に入れられ粘土質の土壌で周囲を覆われていたと思われます。図2-5右上に試料の断面写真を示します。現在でも鉄母材が健全であり切断面は金属光沢を放っています。埋設期間は約1500年です。
各試料における鉄器母材の残存鉄の状態や錆の厚さ、密度分布などの内部構造について、X線CT装置を用いて鉄器の断層画像データを取得しました。X線CT測定では、母材の鉄(密度ρ=0.8)に対して、鉄腐食生成物の一種であるmagnetite(磁鉄鉱,密度ρ=0.4)などとの密度差を測定し腐食生成物の厚さを求めます。
図2-6に室内試験による炭素鋼の腐食データと本トピックスで紹介したデータをあわせてプロットしました。■の点は、保守的に見積もられた予測値であるオーバーパックの1000年後の最大腐食深さ31.8mmを表しています。また、実験により求められている低酸素、還元性条件での炭素鋼の腐食速度0.001mm/yをグラフに直線で示しました。室内試験データや鉄器の腐食データの分布を考慮して現実的な腐食幅を与えてみますと、31.8mmの腐食予想値の保守性が明らかです。
今後、処分場の設計や安全評価のための炭素鋼の長期腐食挙動評価に関する傍証として、考古学的な試料の調査を続けるとともに、室内実験によるデータとあわせて信頼性の高い評価の確立を目指していきます。