図6-4 NpPd5Al2単結晶の写真
図6-5 NpPd5Al2の結晶構造は体心正方晶で、NpはPdに囲まれています。また、電気抵抗は約5Kでゼロになり、超伝導が実現していることが分かります。
ウラン(U),ネプツニウム(Np),プルトニウム(Pu)などのアクチノイド元素は、核燃料として用いられる原子力にとって非常に重要な元素です。一方、これらを含む物質は固体物性の観点からも非常に大きな興味が持たれています。アクチノイドの5f電子は、時として普通とは異なるタイプの超伝導や磁気的性質を示すことがあるためです。天然に存在するU化合物は古くから研究されてきましたが、Np,Puなどの超ウラン化合物の研究は比較的最近になってから行われるようになりました。2002年にPu化合物の超伝導体PuCoGa5が初めて発見されて以来、アクチノイド化合物の中には、まだ知られていない物質や、未知の現象が潜んでいるのではないかとの期待が高まってきていました。
2007年、Npとパラジウム(Pd)の化合物を探索している過程で、超伝導体が見つかりました(図6-4)。Np化合物の多くは強い磁性を持ち、一方で一般に磁性と超伝導は相性が悪いため、超伝導は実現しにくいと思われていたので、この発見は大変な驚きでした。この物質の組成と結晶構造を詳細に調べることにより、NpとPdに加え、アルミニウム(Al)を含む、これまでに知られていなかった新しい物質NpPd5Al2であることが分かりました(図6-5)。超伝導転移温度は絶対温度で約5Kであり、これは5f電子系超伝導としてはPuCoGa5,PuRhGa5に次いで3番目に高い温度です。更に、超伝導を担っているのは自由電子に比べて2桁も有効質量が大きな「重い電子」であることや、その電子が非常に強い磁性を持っていることが次第に明らかになり、この物質が通常とはかなり異なる、特異な超伝導体であることが分かってきました。そのメカニズムの解明に向けた研究は現在も続いています。
このNpPd5Al2の発見後、国内外の研究者により、同じ構造を持つ希土類・アクチノイド化合物が次々と報告されました。新物質が、超ウランをきっかけに見つかるのは非常に珍しいことです。これらは本研究がもたらした波及効果であると言えます。
アクチノイドの5f電子は、周囲の環境でその状態をめまぐるしく変化させます。中でも、Pu単体は、室温から融点までの間に6種類もの異なる結晶構造をとりますが、このような元素はほかにありません。アクチノイド元素に対して新しい環境を提供するような新物質を探索することは、今回のNpPd5Al2のように新規な現象の発見に結びつきます。このような研究は物質科学の探究そのものであると同時に、アクチノイド元素のより深い理解へとつながると考えています。
本研究は、東北大学金属材料研究所及び大阪大学と共同で行われました。