図1-25 従来型溶媒抽出プロセスと簡素化溶媒抽出プロセスの比較
表1-4 原子価と抽出性
先進湿式法再処理技術開発の一環として、U,Pu,Npを一括回収する簡素化溶媒抽出プロセスの開発を行っています(図1-25)。簡素化溶媒抽出プロセスは、晶析プロセスの適用を前提に、従来型溶媒抽出プロセスと比較して取り扱う核燃料物質量が少なく、かつU/Pu分配工程を削除することによりPuを常にU等とともに存在させる(Pu単独では存在しない)抽出プロセスの構築が可能で、廃棄物発生量の低減,コスト削減,核拡散抵抗性向上の効果が得られるものと期待されています。
リン酸トリブチル(TBP)に対するU,Puなどアクチニド元素の抽出性は原子価により異なります(表1-4)。従来の再処理では、抽出性の電荷状態であるU(VI)とPu(IV)でTBPに抽出し、還元剤によりPuのみを難抽出性のPu(III)に還元して逆抽出します。Uは硝酸濃度の低い硝酸により逆抽出します。先進湿式法再処理では、一部のUは晶析法によりあらかじめ分離回収し、還元剤を用いた分配を行わず、UとPuを一括して逆抽出します。一方、Npは硝酸溶液中で抽出性のNp(IV),Np(VI)と難抽出性のNp(V)で存在し得るので、原子価を適切に制御することにより抽出,逆抽出をすることができます。原子価制御に酸化還元剤を用いた場合は、処理する溶液の組成に応じた調整が必要となったり、使用試薬の種類が増えたりしてしまいます。私たちは、酸化還元剤を用いることなく硝酸濃度の調整のみのシンプルなNp原子価制御によって、U-Pu-Npを一括回収するプロセスを開発しています。硝酸濃度のみの調整でシンプルに原子価制御できれば、TBPと硝酸のみが使用され、その他の試薬を必要としない簡素なプロセスとなります。
高レベル放射性物質研究施設(CPF)では「常陽」の照射済燃料を用いてU,Pu,Npを一括回収する試験研究を実施しています。抽出装置には、FBR燃料再処理用として私たちが開発している遠心抽出器の知見を利用して製作した小型遠心抽出器を使用しています。本試験研究により、抽出工程へ供給するフィード溶液,洗浄液のどちらかを高硝酸濃度化するシンプルな調整により、U-Pu-Npを一括で回収できることが分かりました。
今後は、除染係数の向上,使用試薬量の低減等の観点からプロセス条件の最適化を図っていく予定です。