13-6 空間中の磁場を中性子で可視化

−大強度偏極パルス中性子による新しい磁場可視化技術の開発−

図13-13 偏極中性子を用いた磁場可視化システムの概念図

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図13-13 偏極中性子を用いた磁場可視化システムの概念図

磁場可視化システムは偏極素子,検極素子等からなる偏極中性子解析機器と画像検出器から構成されます。偏極素子で最大偏極度98%の偏極中性子を作り、磁場空間を透過後の中性子の偏極度の変化を検極素子で解析し、最後段の検出器でその空間分布を画像として得ます。

 

図13-14 磁場可視化システムを用いた磁場分布の観察

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図13-14 磁場可視化システムを用いた磁場分布の観察

軟磁性金属箔の15 mm×15 mmの範囲について、磁場の分布を可視化した結果を示します。(a)は磁場ベクトルのX成分,(b)はY成分の強度分布を示します。X,Y成分の強度分布の結果をもとに合成した磁場ベクトルを(b)中の矢印で表しています。

中性子はスピンを持ち、磁場中で歳差運動をします。このため、磁場空間を透過したあとの中性子スピンの回転を調べることにより、磁場の強さと向きが分かります。この特徴を利用することで、磁場の空間分布を画像として再現し、目に見えない磁場を可視化することができます。特に、中性子は物質透過能力が高いため物質内部の磁場も調べることができます。また、スピンの回転は中性子の速度と磁場の強さに依存します。パルス中性子は様々な速度の中性子を含み、各々の速度を飛行時間法により決定できるので、入射中性子の速度とスピンの回転の関係を効率良く調べることができ、磁場の強さを精度良く決定できます。

私たちは、中性子を用いた磁場の可視化法として、スピンの向きが一方向にそろった偏極中性子を利用して、磁場空間を通過したあとのスピンの回転を偏極度の変化として取得する「偏極度解析技術」と、パルス中性子を利用して中性子透過画像を取得する「パルス中性子イメージング法」を組み合わせた新しい手法を開発しました。図13 - 13は測定システムの概念図で、偏極素子と検極素子、スピン反転器からなる偏極中性子解析機器と画像検出器で構成されます。ここで、スピン回転子を用いて入射する中性子のスピンと検出する中性子のスピンの向きを選択することで、磁場ベクトルのX,Y,Z成分の値が得られ、磁場の方向を決定できるようになります。図13 - 14は、J-PARCの中性子源特性試験装置(NOBORU)で測定した軟磁性金属箔の内部の磁場分布の結果です。磁場強度は縞状に分布し、磁場ベクトルの各成分を合成して求めた磁場の方向が互い違いであることを明らかにしました(図13 - 14(b)の矢印)。また、磁場の強さが1.2 Tであることも分かりました。

位置ごとに偏極度を解析して磁場を可視化するためには、中性子強度が十分高いことが必要ですが、J-PARCの大強度パルス中性子を利用することによって、1 mm以下の空間分解能で磁場の分布を画像にするとともに、その強さと方向を決定できるようになりました。

私たちが開発している手法は、磁性材料研究だけでなく、磁場を利用する機器の特性評価への応用が期待でき、磁気に関連する幅広い分野での研究開発に貢献するものと考えます。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(No.22604009)「偏極パルス中性子による空間磁場可視化法の開発と応用」の成果の一部です。