図13-11 高分解能2次元シンチレータ中性子検出器(iBIX装置用)
図13-12 大面積2次元シンチレータ中性子検出器(SENJU装置用)
中性子を用いた蛋白質の結晶構造解析では蛋白質内の水素の位置を特定できるなど、ほかの手法にない優れた長所があります。一方、蛋白質結晶からの回折ピークは強度が弱くかつ空間的に密なため1 mm以下の位置分解能、50%以上の検出効率、不感領域が小さく多数を配置できる検出器が不可欠です。
この課題を克服するため、私たちは中性子有感シンチレータと波長シフトファイバ(WLSF)を用いた高分解能2次元検出器を開発しました(図13 - 11)。この検出器ではまず中性子をシンチレータで吸収し光へ変換します。シンチレータを0.4 mmと薄くすることで発光の拡がりを抑え、直径0.5 mmの細いファイバで光を読み出すことで位置分解能0.9 mm、不感領域36%を実現しました。さらに、従来品(ZnS/6LiF)より中性子吸収率が約4倍高いシンチレータ(ZnS/10B2O3)を開発し、2枚のシートを組み込めるヘッド構造の考案と微弱発光の検出に最適なフォトンカウンティング計測システムの構築により、世界一級の検出効率50%を実現しました(従来は35%)。
本検出器を30台装てんしたJ-PARCの茨城県生命物質構造解析装置iBIXでは研究用原子炉(JRR-3)で1ヶ月以上を要した測定が約3日で可能になります(1 mm3試料)。蛋白質結晶のほとんどが小サイズでしか得られないため測定効率の向上は極めて重要です。
次に、私たちは本検出器が持つ性能や特徴を活かし、微小な金属や低分子化合物結晶を極低温や高磁場等の極端条件下で測定する物質構造解析装置SENJUの整備に貢献しました。SENJUには広い運動量領域を効率良く測定できる大面積があり、かつ、位置分解能4 mm、高検出効率というこれまでにない検出器が必要でした。そこで、私たちは直径1 mmの太いWLSFを4 mm間隔で配置した大面積型の検出器を考案しました(図13 - 12)。この構造によると検出効率は40%と高く、かつ、有感面積はiBIX検出器の4倍です。本検出器を31台装てんしたSENJUではJRR-3で数日以上を要した測定が1日に短縮され、X線回折実験で標準的な少量試料(<1 mm3)でも十分な統計精度での中性子回折測定が可能になりました。
今回の検出器技術開発によってユニークかつ、高性能な中性子回折装置が実現し高精度な構造解析が可能になりました。これらの検出器は中性子計測が必要な様々な分野にも活用できます。