図1-48 実験に用いたゼオライト吸着剤
図1-49 ゼオライトと海水との混合物からの水素発生量
表1-6 水素発生量の評価条件と評価値
東京電力福島第一原子力発電所(1F )事故以来、私たちは放射性物質で汚染された水の処理で発生する廃ゼオライトを処理・処分するまで安全に保管するための研究に取り組んでいます。1Fでの汚染水処理では、放射性Csを除去するために、ゼオライト吸着剤が利用されています。この方法はスリーマイル島2号機事故での実績がありますが、1Fの汚染水には海水が混入している点で状況が異なっており、安全性の評価には海水の影響を考慮する必要があります。
水が放射線にさらされると、水分子が分解され水素が発生します。そのため、廃ゼオライトの保管時には、水素濃度を適切に管理する必要があります。そのためには、まず、水素発生量の評価が重要になります。海水中の塩は水素発生にかかわる化学反応に関与します。一方、ゼオライトのような無機酸化物との混合状態では、水の放射線分解による水素発生量が増加する現象が知られていますが、そのメカニズムは十分に理解されていません。そのため、ゼオライトと海水との混合状態、すなわち両者の影響が重なり合う条件では、水素発生量の予測は困難でした。
そこで、水素発生量を評価するため、実際の水処理で利用されているKURION社製のゼオライトHに加えて、同社のゼオライトEH及び国産で安価な愛子産天然モルデナイトについて(図1- 48)、海水との混合物にγ線を照射し、水素発生量を調べました。海水のみを照射した場合も含めて、結果を図1- 49に示します。三種類のゼオライトで水素発生量は同程度であることが分かりました。
これらの結果から、表1-6に示す条件を想定して、廃ゼオライトからの水素発生量を評価しました。表1-6の水素発生の放射線化学収量は単位吸収エネルギーでの水素発生量、すなわち図1- 49の点線の傾きに対応する量です。ここでは、混合物で測定された中で最も高い3.5×10−8 mol/Jとしました。この場合、水素発生量は標準状態で約1.5 L/hと評価することができました。
また、図1- 49に示した通り、ゼオライトとの混合物では、海水のみの場合より水素発生量が低くなっており、すべての放射線が廃ゼオライト中の海水に吸収されると仮定すれば、より保守的となることが分かりました。
今後は様々な条件での水素発生に関する基礎データを整備し、評価手法を高度化し、より精度の高い水素発生量評価を提供することで、着実な事故終息に貢献していきたいと考えています。