2-3 大口径曲がり管内の流れを予測する

−ナトリウム冷却高速炉における大口径配管の流力振動評価−

図2-4 PIVの原理

図2-4 PIVの原理

透明樹脂製のエルボ配管内の流れに混入させた微粒子をレーザー光で照射し、短い時間間隔で粒子画像を2回撮影します。この二つの画像から得られた粒子の移動距離と時間差から流速を算出することができます。

 

図2-5 ショートエルボ内の流速分布(平均)

図2-5 ショートエルボ内の流速分布(平均)

エルボ内では速度が遅い領域(青)と主流(赤−黄)があり、その境界部(緑)では速度の変動が周期的です。遅い領域では主流に対して逆方向へ流れます(これを流体剥離現象といい、遅い領域を剥離部といいます)。

 

図2-6 エルボ出口の配管円断面における流速分布(瞬時)

図2-6 エルボ出口の配管円断面における流速分布(瞬時)

流れは、配管両側面部からエルボの腹側に向かって交互に流入します。この流れと図2-5で示した剥離部が相互に影響し合い、腹側での流速の変動が起こります。

大型ナトリウム冷却高速炉(大型炉)では、配管の一部に大口径のショートエルボ(曲がり管、直径約1.2 m)の採用を検討しています。ショートエルボでは短い距離で流れ方向が90°曲げられるため、内部の流速は大きく変動します。流速変動の周期と配管が揺れやすい振動(固有振動数)が近い場合、配管に顕著な揺れが生じる場合があります。この現象を流体励起振動といいます。大型炉の配管設計においては、この流体励起振動によって配管が破損しないように、エルボ内での流動変動の様子を把握しておく必要があります。そのため、大型炉の配管を1/8縮尺にした水流動試験装置を用い、ショートエルボ内の流速変動について詳細に調べることで、流体励起振動の発生メカニズムを解明し、大口径配管の健全性評価に資することを目的とした研究を進めています。試験では流体(水)に数10 μm程度の微粒子を混入し、レーザー光で照射された粒子の動きを高速度カメラで撮影し、人間の目では捉えることのできない高速な流れを可視化する、粒子画像流速計測法(Particle Image Velocimetry: PIV)を用いました(図2-4)。このようにして計測したエルボの内部の流速分布を図2-5に示します。腹側における剥離領域の流れの計測に成功し、周期的に揺らいでいること、またその周波数特性を定量的に明らかにしました。さらに、今までほとんどデータが存在しない配管断面の2次流れのデータ(図2-6)を取得し、面内の流速変動特性を明らかにしました。エルボ出口近傍では、腹側に交互に流入する流れを観測し、腹側近傍では大きな流体の乱れがあることが判明しました。

これらの結果より、大型炉内におけるエルボ内での流動構造を機構論的に説明することが可能となり、この知見は「ナトリウム冷却高速炉1次系ホットレグ配管流力振動評価指針(案)」の策定においてエルボ内流れの解明及び大口径配管流れの予測に反映され、評価を通じてJSFRの配管設計においても大きな貢献を果たしました。