2-4 高速炉配管溶接部設計の信頼度をより高く

−Type-IV損傷を考慮した改良9Cr-1Mo鋼溶接継手のクリープ強度評価−

図2-7 我が国が開発を進めるSFRの炉容器と1次冷却系の概念図

図2-7 我が国が開発を進めるSFRの炉容器と1次冷却系の概念図

改良9Cr-1Mo鋼の採用によって、配管引回しを簡素化しようとしています。高応力となる(a)及び(b)の溶接部について、クリープ損傷を評価した結果、Type-IV損傷を考慮しても、設計が成立することが示されました。

 

図2-8 改良9Cr-1Mo鋼溶接継手のクリープ破断伸び(試験結果)

図2-8 改良9Cr-1Mo鋼溶接継手のクリープ破断伸び(試験結果)

クリープ試験における応力が当該温度における0.2%耐力の1/2以下の試験において、非常に小さい伸びでクリープ破断していることが分かりました。長時間になるに従って破損メカニズムが延性クリープからType-IV損傷へ変化していることが推測されました。

ナトリウム冷却高速炉(SFR)では、冷却系配管に、熱膨張が小さく高温強度に優れる改良9Cr-1Mo鋼を採用することによって、図2-7に示すように配管引回しを簡素化してプラントコンパクト化を図ろうとしています。改良9Cr-1Mo鋼を始めとする高強度フェライト系耐熱鋼では、特に高温・長時間領域において溶接継手の強度が母材に比較して顕著に低下し、溶接熱影響部(Heat Affected Zone:HAZ)で破断する、いわゆるType-IV損傷が懸念されています。国内の火力発電設備においても、これによる破損が生じており、火力発電設備の技術基準では溶接継手の許容応力が引き下げられました。そこで本研究では、既存の試験データを破損メカニズムに対応した方法で解析して溶接継手のクリープ寿命予測式を作成し、更に安全余裕を考慮して、SFR配管の設計成立性を見通すこととしました。

改良9Cr-1Mo鋼溶接継手に対する既存のクリープ試験データを分析したところ、図2-8に示すように、試験における応力が当該温度における0.2%耐力の1/2以下の長時間クリープ試験において、目立って小さい伸びで破断が生じていることが分かりました。また、試験でのクリープ破断時間が短時間から長時間になるに伴って、クリープ破断の発生位置が母材からHAZに遷移することも明らかになりました。これらのことから、改良9Cr-1Mo鋼溶接継手では、長時間になるに従って破損メカニズムが延性クリープからType-IV損傷へ変化していることが明らかになりました。このため、高強度化に寄与する組織が安定に維持される高応力(短時間)域と、それが崩壊してしまう低応力(長時間)域を区分し、それぞれ独立に多項式近似し、改良9Cr-1Mo鋼溶接継手のクリープ強度を予測する式を作成しました。

さらに、高応力域及び低応力域のそれぞれについて、クリープ強度データのばらつきを評価したところ、これらの間に有意な差があることが明らかになりました。そこで、それぞれの領域ごとに安全率を見込み、作成したクリープ強度予測式に適用して、図2-7に赤色で示した1次系ホットレグ配管の2箇所の溶接部(a)及び(b)について、60年間のクリープ損傷を評価しました。その結果、いずれの溶接部も、許容される応力以下となっていることが確認され、設計の信頼性が高いことを確認できました。