図3-3 光学的手法を用いた塩濃度分布測定装置(例:塩水楔試験)
図3-4 塩水楔試験結果の例(塩濃度分布)
図3-5 塩水楔試験解析結果の例(塩濃度分布)
放射性廃棄物の地層処分における安全評価は、放射性物質が地下水によって処分施設から人間の生活環境へ運ばれると想定する「地下水シナリオ」を基本として行われます。地下水流動や核種移行評価においては、地層や岩石及び地下水の特性に応じて適切なモデルが選択されます。沿岸域のように地下に塩水系地下水と淡水系地下水の両者が存在する場合には、両者の密度差による流れ(密度流)によって塩水系地下水が淡水系地下水の下部側に浸入する塩水楔現象や、地下坑道への湧水等による塩水系地下水の上昇混入(アップコーニング)現象が発生します。更に長期的には、海水準の変動により塩水系地下水と淡水系地下水の境界(塩淡境界)の位置が大きく変化することが考えられます。このような現象を原位置において把握するための調査研究が実施されていますが、多様な岩相や割れ目の分布等に伴う不均質性により、地下水中の塩濃度分布や流動状況の把握が難しくなるため、数値解析による補完的評価が欠かせないものになっています。この数値解析は、地下水流動として複数の現象(移流・拡散と密度流)を連成させる必要があります。しかしながら、例えば塩水楔現象について、室内実験の結果と解析結果の比較検証が塩水楔の分布形状を用いて行われていますが、塩濃度分布を用いた定量的な検証には至っていないのが現状です。
そこでDtransuのような地下水流動解析コードの定量的な比較検証を行うために、ガラスビーズを充てんして均質媒体を模擬できる媒体層を有する試験装置で塩水楔現象を再現すると同時に媒体層内の塩濃度分布を光学的に測定する手法を開発しました(図3-3)。これは、塩水のトレーサとして十分に低い濃度の染料を用い、白色LEDの反射光を高分解能CCDカメラで取得し、Kubelka-Munkによる染料濃度と反射光強度の関係式を応用して塩濃度分布を定量化する方法です(図3-4)。これにより、媒体層内の流れを設置した計測機器で乱すことがなくなり、全体の塩濃度分布やその経時変化も定量的に計測することが可能になった上に空間的解像度が飛躍的に向上しました。
現在、得られたデータと解析結果(図3-5)の比較により、解析コードの検証と高度化を検討しています。今後は試験方法の信頼性向上とデータの拡充を進め、海水準変動やアップコーニングを模擬した試験、塩水楔中や淡水中の流れの詳細の把握にも取組む予定です。