7-1 世界で初めて239Pu核磁気共鳴信号の観測に成功

−Pu化合物の電子状態解明に向けて−

図7-3 世界で初めて観測に成功した239PuのNMR信号

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図7-3 世界で初めて観測に成功した239PuのNMR信号

(a)には純良試料のPuO2おける239Pu NMRスペクトルを、(b)には酸素欠損のある試料PuO2-xにおける239Pu NMRスペクトルを示します。(a)(b)の挿入図はPuO2の結晶構造です。(b)図の線はフィッティング曲線を、線は二本に分裂した共鳴線を示します。

核磁気共鳴(NMR)は原子核の磁石としての性質を利用し、原子核の周りの電子状態を知ることができる測定手法です。そのため、物性物理学や、化学や生物学の分子構造解析、医療のMRIなど、広い分野にNMRは応用されています。1946年にNMR信号が観測されて以来、現在では九十種類を超える核種のNMRが可能となりました。その一方でアクチノイド元素と呼ばれる一連の元素群の中ではNMRが可能なのは235Uしかありませんでした。アクチノイド元素の中でPuは特に魅力に富んだ物質です。金属単体において六種類もの結晶構造をとることなど、一筋縄では理解できない元素として科学者の興味を引き続けています。原子力燃料としても重要なのですが、Puイオンの電子状態はよく理解されていません。このような理由で、過去50年以上にわたって世界中の科学者がPu NMR信号の探索を行ってきましたが、現在まで成功した例はありませんでした。

私たちは、米国ロスアラモス研究所(LANL)において239Pu NMR信号探索の共同研究を行いました。LANLの化学者が作成した極めて純良な試料を用いるとともに、綿密な実験計画に基づき多くの測定パラメータを精密に制御しながら探索した結果、239Pu NMR信号の観測に成功しました。

図7-3は世界で初めて観測に成功した239PuのNMR信号です。図7-3(a)は純度の高いPuO2を用いて測定した239Pu NMRスペクトルです。ここから、重要な基礎物理量である核磁気モーメントの大きさが0.15 μN(核磁子)とまとまりました。図7-3(b)は酸素欠損のある試料PuO2-xにおいて、(a)と同じ条件で測定した239Pu NMRスペクトルです。(a)のスペクトルと比較して共鳴位置や構造は大きく異なっています。このことは239Pu NMRが酸素の配位状態の違いに敏感であり、NMRの分解能が高いことを示しています。

この成功により、今後は様々なPu化合物に対して239Pu NMRを用いた電子状態の研究が進むと期待されています。特に、昨今の世界的な重要課題であるPuを含む使用済原子力燃料の長期保管に関して、Puの電子状態を解明することでPuの安定性が判断できるため、より安全な長期保管方法の構築に役立つと期待されています。