7 先端基礎研究

未来を拓く先端基礎研究

図7-1 原子力科学の萌芽となる未踏分野の開拓を目指すための各分野間や他部門との連携

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図7-1 原子力科学の萌芽となる未踏分野の開拓を目指すための各分野間や他部門との連携

 

図7-2 黎明研究制度を通じた国際共同研究で開発された磁性半導体Li(Zn,Mn)Asの結晶構造

図7-2 黎明研究制度を通じた国際共同研究で開発された磁性半導体Li(Zn,Mn)Asの結晶構造


原子力にかかわる技術の多くは、総合科学の結集として、その基盤が支えられています。しかし原子力研究開発においては、10年後あるいは20年後に実用化される原子力利用の新しいフェーズに対し、その端緒を拓く研究を進めておくことも必須の課題といえます。

先端基礎研究センターでは、原子力科学における無限の可能性を基礎科学の立場から掘り起こし、更にその過程から新しい学問分野を開拓し、学術の進歩と最先端の科学技術の振興を図ることを目指しています。

2010年度から始まった中期計画では、先端材料基礎科学,重元素基礎科学及び放射場基礎科学の三分野で研究を進めています。

先端材料基礎科学では、スピントロニクス材料の開発や物性理論の高度化、重元素基礎科学では、超重元素等の核物理的性質や化合物の新しい固体物理コンセプトの開拓、そして放射場基礎科学では、ハドロン物理,生物とアクチノイド元素や放射線に関する研究及びスピン偏極陽電子ビーム技術の開発と応用といった研究を実施しています。これらの各分野間の連携や、他部門等との協力を通じ、原子力科学の萌芽となる未踏分野の開拓を目指しています(図7-1)。2011年度は、239PuのNMR信号の世界初の測定(トピックス7-1)、スピン流創出に関する新機構の発見(トピックス7-2)、世界最高品質のグラフェン膜の作成技術開発(トピックス7-3)、ウラン化合物の超伝導に関連する異常な電気抵抗成分の発見などで顕著な成果を挙げました。また、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故対応の研究として、植物に付着した放射性Csの分布の可視化(トピックス1-17)といった研究も行っています。これらについては次ページ以降で詳しく述べます。

これらの先端基礎研究では、原子力機構内部での連携に加えて、黎明研究制度を中心とした原子力機構外、特に国外との連携も大きな役割を果たしています。2011年度は、このような共同研究が新しい磁性半導体の開発に結びつきました。開発されたLi(Zn,Mn)Asでは、磁気的性質と電気的性質が独立に制御できる強磁性半導体で、スピントロニクス分野での応用が大きく期待されています。この成果は、中国科学院,米国コロンビア大学,東京大学との黎明研究に基づく国際共同研究で達成されたものです(図7-2)。