図1-25 可搬型ファイバ伝送LIBS装置試作機
図1-26 開発した水中LIBSプローブ
東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故後の1F廃炉作業において、その炉内状況を調べることは最重要課題のひとつです。原子炉内では、溶融落下した燃料デブリが水中に沈んでおり、その位置や成分等の情報が廃炉措置を進めるうえで不可欠です。しかし、原子炉近傍は高放射線環境下にあり、またその内部には付帯設備のパイプライン等があり多くの狭隘部があるため、限られた空間で遠隔操作により炉内観察できる技術が必要です。
そこで私たちは、このような炉内観察技術として、光ファイバ伝送システムを組み込んだレーザー誘起ブレークダウン分光(LIBS) 技術を提案しています。LIBSとは、強力なパルスレーザーで測定対象物を蒸発させ発生したプラズマの発光スペクトルを分光することにより元素分析を行う手法です。図1-25は製作した可搬型光ファイバ伝送LIBS装置試作機の外観で、ナノ秒パルスレーザー,レーザー伝送用光ファイバ,LIBSプローブ(分析試料にレーザー光を集光し、発生させたプラズマ発光を光ファイバへ導入するための光学系),分光器から構成されています。特に、燃料デブリに接近する光ファイバ及びLIBSプローブには放射線耐性の高い材料を使用しており、実使用においては、高放射線量環境下でもこれらの光学特性が変化しないことが要求されます。そこで、高崎量子応用研究所のガンマ線照射施設において光ファイバの放射線耐性試験を行い、毎時750 Gyのコバルト60からのγ線照射環境下に2180時間(総線量1.6 MGy)放置しても、レーザー光照射及び発光観測に使用する赤外線領域(730〜1100 nm)では光学特性がほとんど変化しないことを確認しました。
一方、水中に沈んでいると予想される燃料デブリをLIBS分析するためには、耐放射線仕様に加え、特別な工夫が必要です。それは、水中では発生させたプラズマがすぐに冷却されるので、発光観測が難しいからです。そこで、私たちはLIBSプローブの先端部からガスを噴出して水中で擬大気環境を作り上げ(図1-26(a))、大気中と同じ条件で元素分析できるようにしました。図1-26(b)は試料にジルカロイを用いた時の観測例です。
今後、放射線計測技術及びイメージファイバによる観察技術(大洗研究開発センター及び量子ビーム応用研究センターで開発中)と核燃料物質の発光スペクトルデータ(原子力基礎工学研究センターで取得中)と組み合わせ、原子炉内での燃料デブリのその場観察・分析が可能な技術に仕上げていく予定です。