5-8 夢の顕微鏡軟X線顕微鏡により生きている細胞を観る

−高輝度レーザープラズマ軟X線源と密着法を組み合わせたレーザープラズマ軟X線顕微鏡の実現−

図5-23 レーザープラズマ軟X線顕微鏡の原理図

図5-23 レーザープラズマ軟X線顕微鏡の原理図

高強度レーザーにより生成したレーザープラズマから発生した軟X線をX線感光材上の細胞に照射します。

 

図5-24 生きている細胞の(a)軟X線像と(b)蛍光像

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図5-24 生きている細胞の(a)軟X線像と(b)蛍光像

蛍光像で赤く光っているのがミトコンドリア、青く光っているのが細胞核、緑に光っているのが細胞骨格です。

 

図5-25 レーザープラズマ軟X線顕微鏡よる細胞の詳細な内部構造

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図5-25 レーザープラズマ軟X線顕微鏡よる細胞の詳細な内部構造

レーザープラズマ軟X線顕微鏡により生きている細胞内のミトコンドリアを観察できるようになりました。

高輝度で短パルスという特徴を持つレーザープラズマ軟X線源と培養中の細胞をそのまま観察できる密着法を組み合わせるとともに、同一の細胞を軟X線顕微鏡と蛍光顕微鏡で同時に観察するハイブリッド顕微法を考案することによりレーザープラズマ軟X線顕微鏡を開発しています。

厚さ数10-8 mという非常に薄い金の薄膜に高強度レーザーを集光することにより高輝度軟X線源を生成しました。レーザーのエネルギーを薄膜の小さな領域に閉じ込めることにより効率良く軟X線を発生します。図5-23に開発したレーザープラズマ軟X線顕微鏡の原理図を示しました。高強度レーザーにより生成したレーザープラズマから発生した軟X線をX線感光材上に直接培養した細胞に照射することにより培養中の細胞の軟X線像を取得します。さらに、あらかじめ蛍光標識を施した細胞を軟X線顕微鏡と蛍光顕微鏡により同時に観察することにより細胞の軟X線像と蛍光像を直接比較できます。

図5-24に生きている細胞の(a)軟X線像と(b)蛍光像を示しました。細胞はあらかじめミトコンドリアを選択的に標識するマイトトラッカー,クロマチンを選択的に標識するDAPI,アクチンフィラメントを選択的に標識するファロイジンで蛍光標識を施しました。図5-24(b)の蛍光像で赤く光っているのがミトコンドリア,青く光っているのが細胞核(クロマチン),緑に光っているのが細胞骨格(アクチンフィラメント)です。同じ細胞を観察した蛍光像と直接比較することにより軟X線像の中の細胞内器官を正確に特定することができます。

図5-25には軟X線顕微鏡によって撮像した細胞の詳細な内部構造の軟X線像を示しました。図5-25(c)では細胞核とその周辺に集まっているミトコンドリアが確認できます。(d)はミトコンドリアの部分を拡大したもので、ミトコンドリアが網目状に広がっていることが分かります。(e)は一つのミトコンドリアを拡大したもので生きている状態でのミトコンドリアが初めて観察できました。

このように、レーザープラズマ軟X線顕微鏡を開発することで生きている細胞内のミトコンドリアの構造を観察することができるようになりました。今後、生命科学研究への貢献が期待できます。

本研究は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金(No.25390134)「生きている細胞の内部構造とその変化をその場観察するハイブリット顕微鏡の開発」の成果の一部です。