1-4 イオン交換樹脂で水中ストロンチウムを現地で効率的に回収

−淡水中の低濃度放射性ストロンチウム分析法の開発−

図1-10 現地における試料採取時の作業(前処理)の比較

図1-10 現地における試料採取時の作業(前処理)の比較

大容量の水試料から分析する場合、通常は水試料をそのまま実験室へ運搬します。また、現地において目的元素を回収する方法として、共沈法及びバッチ法があります。

 

図1-11 バッチ法による上澄み液の電気伝導度と陽イオン交換樹脂量/水量の関係

図1-11 バッチ法による上澄み液の電気伝導度と陽イオン交換樹脂量/水量の関係

いずれの水試料においても、水試料の電気伝導度を切片として、樹脂量を増加させると上澄み液の電気伝導度が一定の傾きで減少しました。

 


淡水中の90Srは通常、極低濃度(数mBqL-1程度)であるため、その放射能を精度良く測定するには大容量(100 L以上)の水試料を濃縮して分析する必要があります。しかし、試料ごとに大容量の水試料を運搬していては、一度に多地点での試料採取を行うことは困難です。また、現地における劇薬等の使用や実験廃液の廃棄問題を伴う共沈法も望ましくありません。本研究では、現地において劇薬等を使用せずにストロンチウム(Sr)を回収でき、水試料量の減容も可能な方法として、イオン交換樹脂(Powdex樹脂)を用いたバッチ法を採用し、多地点における試料採取を可能にする方法を開発しました(図1-10)。

バッチ法は、現地において大容量の水試料が入った容器に直接樹脂を入れて一定時間攪拌し、目的成分を樹脂に吸着させる方法です。本研究の課題は、溶存物質量が様々である天然水に対し、Srを回収するために必要な樹脂量を現地で決定する方法でした。様々な淡水試料について、バッチ法で処理した上澄み液の電気伝導度(EC)と水試料のEC、陽イオン交換樹脂量及び水量の関係を調べた結果、試料の種類によらず、上澄み液のECは、樹脂量,水量及び試料のECからなる式で決定できることが分かりました(図1-11)。水中のSrを全て回収した場合の上澄み液のECはゼロとみなせるため、Srの回収に必要な樹脂量は、採取した水試料のECの測定値と水量で決定できるようになりました。また、陰イオン交換樹脂も同時に加えることで、中性に維持した上澄み液を現地で廃棄でき、効率的な試料の減容及び一度に多地点での試料採取が可能となりました。

持ち帰った樹脂については、吸着成分を抽出した後、カルシウムや90Sr測定の妨害となる放射性鉛やラジウム等の不純物からSrを化学的に分離しました。

本手法を水道水170 Lに適用したところ、高いSr回収率(平均88%)を得ました。また、既知量の90Srを含むECの異なる複数の水(170 L)に本手法を適用したところ、得られた90Sr濃度と良く一致したことから、手法の妥当性が確認できました。本手法では、水試料170 Lから分析した場合、約0.1 mBqL-1という低濃度まで測定可能です。

本研究で確立した分析法は、汚染地域へ帰還した住民のより詳細な被ばく評価を可能にし、住民の安全・安心の確保に役立ちます。