1-7 スパコンで究明する土がセシウムを取り込む仕組み

−第一原理計算が明らかにしたセシウム特異吸着のメカニズム−

図1-17 雲母類粘土鉱物のCs吸着反応モデルと特異吸着のメカニズム

図1-17 雲母類粘土鉱物のCs吸着反応モデルと特異吸着のメカニズム

雲母類粘土鉱物による水溶Csイオンの吸着モデル模式図です。 雲母類粘土鉱物は層構造を持ち、層間イオンによって層間距離が変化します。この性質により、Csイオンが多くなった層間にはCsイオンが吸着しやすくなります。

 

図1-18 雲母類粘土鉱物のCs吸着エネルギー
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図1-18 雲母類粘土鉱物のCs吸着エネルギー

(a)第一原理計算による吸着エネルギーの計算結果です。吸着エネルギーとは、吸着反応に必要なエネルギーであり、これが負であれば吸着が起こり、値が小さいほど吸着されやすいことを意味します。結果は、粘土鉱物にCsが吸着されればされるほど、よりCsが吸着されやすいことを示しています。(b)吸着過程の例です。吸着Csが3個の場合の吸着過程を示しています。

 


東京電力福島第一原子力発電所事故により多量の放射性物質が環境中に放出されましたが、なかでもセシウム(Cs)は半減期が長く、現在も表層土壌に留まり、放射線を放出しています。住民帰還のために大規模な除染作業が続けられ、放射能の低減に成功しています。しかし、除染によって排出された膨大な量の廃棄土壌の処理が新たな問題となっています。

土壌中のCsは、主に雲母類粘土鉱物に強く吸着されていることが知られており、雲母類粘土鉱物からCsを分離できれば、廃棄土壌の減容化が可能です。しかし、Csが雲母類粘土鉱物のどこにどのように吸着しているのか未知の部分が多く、効率的,経済的な分離法はまだ確立されていません。Csの雲母類粘土鉱物における吸着様態を解明することにより、効果的な分離法開発が可能になると期待されます。

環境中に放出されたCsは、陽イオンとして水に溶け、その後、土壌中雲母類粘土鉱物中のカリウム(K)イオンとのイオン交換によって吸着されたものと考えられています。さらに、福島県の土壌をサンプリング・解析した最新の実験・観測結果から、Csは雲母類粘土鉱物の一種である黒雲母に集中して特異的に吸着していることが分かりました(トピックス1-8)。これは、Csは広く薄く分布しているとの予想を覆す結果です。しかし、その吸着機構は未知であり、これが一般的な吸着様態か否かは不明なままでした。

そこで私たちは、黒雲母の端成分である金雲母と鉄雲母,そして白雲母についてイオン交換反応をスーパーコンピュータ上でモデル化し(図1-17)、第一原理計算手法と呼ばれる高精度な計算科学手法を用いて吸着エネルギーを計算し、比較しました(図1-18)。その結果、粘土鉱物はCsを吸着すればするほど吸着力が強くなることが分かりました。なかでも、黒雲母の端成分である金雲母は特にCsを吸着しやすくなることが分かりました。さらに、この傾向は層間距離とイオン半径の関係で説明できることを明らかにしました(図1-17)。この結果は、上記観測・実験結果が一般的な現象を捉えたものであることを示唆しています。今後は、特異吸着したCsを粘土鉱物からいかに分離するかという課題に挑戦し、最終的には廃棄土壌の減容化に貢献すべく研究開発を進めていきます。