図5-38 FBGセンサの配管への実装方法(ナノ金属微粒子接着剤)
図5-39 FBGセンサのナトリウム工学研究施設配管への実装
原子炉や加速器など中性子照射環境では金属は徐々に弾性を失うため、ボルトナットによる締め付け組立ては役に立たず、溶接を採用しています。しかし、母材としては優秀な性能を持つ金属も、溶接部分では溶融と凝固の過程を経るためその優秀な性能は失われがちです。とりわけ溶接部分に繰り返し応力が加わる場合、破断等の危険性は高まります。したがって、そのような箇所は、そこに発生する歪みを常時監視することが求められます。
しかしながら、量産に適した市販の歪みセンサは高温では使えません。私たちは、超短パルスレーザ加工によって光ファイバコア内部に周期的な屈折率構造を半永久的に書き込むことに成功しました。これはFiber Bragg Grating (FBG)と呼ばれ、高温で使える歪みセンサとなります。コア内部の周期的な屈折率の変化は、周期に対応する特定の波長の光を反射します。光ファイバを配管に密着して沿わせることにより、配管の変形がコアの周期的な屈折率構造を歪ませ、反射するレーザ光の中心波長が変化します。これにより高温配管の歪みの状態監視に可能性が開けました。
このセンサを高温配管に実装するために最も重要な技術は、ナノ粒子金属接着剤を用いる接着技術です。約200 ℃で溶剤が焼結し接着力を発現、約900 ℃まで接着力を維持します。これにより配管からナノ粒子の立体構造を通じて光ファイバまで滑りなく力が伝達されます(図5-38)。私たちは、実験室におけるレーザ加工によるFBGセンサの製作だけでなく、プラントの施工現場における配管表面のメッキ技術と金属接着剤によるFBGセンサの固定技術及び光ファイバのステンレス管による保護など、製作から実装に至る全ての技術を自主開発しました。
以上のFBGセンサの実装工程を、2014年度に敦賀市白木地区に建設されたナトリウム工学研究施設の配管エルボ部分に施しました。接続配管を上下に振動させることで、エルボ部分に生じるかすかな歪みを測定することに成功しました(図5-39)。
私たちは「もんじゅ」の冷却系やJ-PARCの中性子発生ターゲットなど、高温の液体金属が循環する施設を運転しています。これらの施設の配管溶接部の歪みを常時監視する技術を確立し、実証することは、将来炉に向けた保守保全技術の確立に役立つものと期待されます。