図6-1 高温ガス炉の概要:特長,利用,HTTRの主要仕様及び主要技術
海外からの化石資源に過度に依存する我が国のエネルギー需給構造の脆弱性を変革し、かつ、温室効果ガスの排出量削減を同時的に達成していくことが求められています。そのためには、原子力を発電だけでなく、様々な熱需要へ利用することが効果的です。高温ガス炉は多様な産業利用が見込まれ、優れた固有の安全性を有することから、2014年に閣議決定されたエネルギー基本計画や骨太の方針,日本再興戦略において、高温ガス炉の研究開発を推進することが国の方針として示されました。これを受けて、高温ガス炉の実用化戦略の策定について高温ガス炉産学官協議会で検討が行われています。
高温ガス炉がヘリウムガスを冷却材として950 ℃の高温熱を取り出すことができるのは、主に三つの世界最先端の国産技術,(1) ウラン燃料の核分裂で生成される放射性物質を閉じ込める被覆燃料粒子の製造技術,(2)優れた材料特性及び耐照射性を有する大きな黒鉛ブロックの製造技術,(3)耐腐食性の超合金技術によります。これら核となる技術と高温構造設計技術等により、私たちは高温工学試験研究炉(HTTR)の運転において、2004年に950 ℃の熱を取り出すことに世界で初めて成功し、2010年には950 ℃で50日間の連続運転により、安定に高温核熱を供給できることを実証しています(図6-1)。
また、安全性については、事故が起きても特段の機器・設備なしで、燃料被覆材の異常な温度上昇,腐食,可燃性気体の爆発による破損を抑える物理現象が自然に働くこと、つまり、固有の安全性によって、公衆・社会・環境への有害な影響を及ぼさないことが可能です。
高温ガス炉の熱利用については、ヘリウムガスタービンによる高効率発電や燃料電池自動車や製鉄還元の水素供給源として、さらに、廃熱を海水淡水化など、多様な産業利用に応えることができます。
高温ガス炉の経済性向上や廃棄物量の大幅低減を目指して、現在、最高燃焼度160 GWd/tを目指してカザフスタン共和国と協力研究を行うとともに(トピックス6-1)、高濃縮ウラン(93%濃縮)を利用することで、使用済燃料の潜在的有害度を大幅に低減する燃料の研究を進めています(トピックス6-2)。
熱利用の研究では、水から水素を製造する熱化学法ISプロセスについて、耐熱性,耐食性を有する工業材料製反応器を開発しました(トピックス6-3)。また、多様な熱利用システムの確立に向けてヘリウムガスタービンの廃熱を利用した海水淡水化システムの設計研究を行っています(トピックス6-4)。さらに、水素製造などの熱利用施設を一般産業法の下で建設できるようにするため、HTTRを用いて高温ガス炉に熱利用施設を接続するための安全評価技術の開発を行っています(トピックス6-5)。東日本大震災以降、HTTRは運転を停止していますが、再稼働に向けて準備を進めています。