図7-8 3本ピンバンドル試験体系
図7-9 PIV計測結果と解析結果の比較
高速炉の燃料集合体の燃料ピンは、稠密な正三角形格子配列となっており、燃料ピン間の間隔を保持して冷却材流路を確保するため、中性子照射による燃料ピンの寸法変化に比較的柔軟に対応できる螺旋状のワイヤスペーサが利用されています。ところが、燃料ピン間の冷却材流路はワイヤスペーサの存在により狭く複雑な形状となり、高燃焼度化による形状変化などで出力と流量のミスマッチが生じると燃料ピンが破損することが懸念されます。燃料ピンの健全性を評価するためには、この狭く複雑な流路における流動場の評価が重要です。しかしながら、従来このような領域を可視化し、評価に使用する解析コードの検証データを高精度に取得できる技術がありませんでした。
本研究では、冷却材流路であるサブチャンネルを形成する最も基本的な3本ピンバンドル試験体系(図7-8(a))において、粒子画像計測法(Particle Image Velocimetry: PIV)を用い、ワイヤスペーサの影響を受けたサブチャンネル内の流動場の計測を実現しました(図7-8(b))。
PIV計測にあたり、ピンやワイヤを透明で水と屈折率の近いフロン樹脂により製作(インデックスマッチング)することで、サブチャンネル内のレーザーの屈折による歪みを取り除きながら高精度に画像計測を実施しました。
その結果、ワイヤを巻き込む乱れた旋回流とワイヤに沿ったピン周りを比較的安定に旋回する複雑な流動場データ(流速分布,変動強度)の取得に成功しました。一例として、Cピンに巻かれたワイヤ付近の流速分布について、実験データ(図7-9(c))と有限要素法解析コードSPIRAL(図7-9(d))による解析結果と比較して示します。両者は良く一致しており、本コードの検証データとして活用されています。
原子力施設を対象とした安全評価解析コードの検証及び妥当性確認は、国内外において標準化が進められており、近年特に着目されている研究分野です。高速炉用の熱流動解析コード開発においても、燃料集合体内の熱流動特性の把握及び検証データを用いた解析コードの妥当性確認は、重要な物理現象の把握及び実機評価への適用性を確認する観点から必要不可欠です。
このように、本研究で得られた成果は高速炉開発プロジェクトの推進,基盤技術としての解析コードの検証及び妥当性確認を説明するための基準整備に貢献しています。