9-4 世界最大の大電流負イオンビーム生成に成功

−ビームの一様性を改善してJT-60SA要求値以上の電流生成(32A)を達成−

図9-11 JT-60負イオン源の断面図と引出電極

図9-11 JT-60負イオン源の断面図と引出電極

(a)直径2 m,高さ1.8 mの世界最大級の大きさを誇ります。(b)世界最大の引出面積から22 Aの大電流ビームを引き出します。

 

図9-12 JT-60負イオン源の改良前後の磁場構造と改良後のビーム強度分布

図9-12 JT-60負イオン源の改良前後の磁場構造と改良後のビーム強度分布

(c)従来の磁場構造から、高速電子の偏りを抑制する新たな磁場構造を開発しました。(d)磁場構造を改良することで、引出領域から一様な32 Aのビームを引き出しました。

 


JT-60SAやITERでは、核融合プラズマの加熱や電流駆動を目的として、高出力・大電流の中性粒子ビームを入射することが必要です。原子力機構では世界に先駆けて大型の負イオン源(実機JT-60負イオン源)を開発してきました(図9-11(a))。この負イオン源の特徴は、ビームの引出面積が 45×110 cm2と非常に大きく、計1100孔のビーム孔を有している点です(図9-11(b))。JT-60SA計画では、この負イオン源を用いて22 Aの負イオンビーム生成が求められています。しかし、これまでの負イオンビームは空間的な一様性が悪く、1孔から生成させる負イオンビーム強度に偏りがありました。そのため、大きな発散成分を持つビームが多く生成されて加速電極へ衝突することで、ビームの電流値が減少してしまい、大電流負イオンビーム生成が実現できていませんでした。

そこで、負イオンビームの一様性が悪くなる原因を解明するために、実機JT-60負イオン源を用いた試験を実施してきました。その結果、負イオンビームは負イオンビームの素と考えられているプラズマと同方向へ偏っていることを突き止めました。このプラズマはフィラメントから放出される高速電子によって生成し、高速電子は負イオン源の磁場構造の影響を強く受けてドリフトします(磁場ドリフト)。さらに、この高速電子の軌道を計算にて追跡した結果、磁場ドリフトする方向が、改良前の従来型の磁場構造では常に一方向であることが判明しました。つまり、負イオンビームの一方向に偏る原因は、負イオン源の磁場構造によって生じる磁場ドリフトによる高速電子の一方向への偏りと直結していることを見いだしました。そこで、高速電子の偏りを抑制してプラズマをより一様に生成するために、負イオン源に装てんした永久磁石の組合せを工夫した新たな磁場構造を開発しました(図9-12(c))。

この新しい磁場構造で高速電子の偏りを抑制して、一様なプラズマを生成することができました。さらに、負イオンビームの空間分布の一様性を、全体の引出面積に対して68%から83%に大幅に改善しました(図9-12(d))。この一様な領域から32 Aという世界最大の大電流負イオンビーム生成に成功しています(従来型では最大17 A)。この電流値は、JT-60SAでの要求値(22 A)を大きく超えるものであり、JT-60SA計画の進展に貢献することができました。