1-1 デブリはどのように形成されているのか?

−大規模数値解析による詳細なデブリ分布推定と再臨界性の評価−

図1-2 溶融物の堆積挙動(数値解析結果)

拡大図(321kB)

図1-2 溶融物の堆積挙動(数値解析結果)

上部中心から密度の大きい順に(a)UO2、(b)SUS、(c)Zry、(d)B4Cの順に落下させました。落下した物質が複雑に堆積していく様子が分かります。B4Cは他の成分よりも流入量が少なくかつ上境界面での凝固により、ペデスタル底部への落下はほとんど見られませんでした。

 

図1-3 堆積デブリの内部状況(数値解析結果)

図1-3 堆積デブリの内部状況(数値解析結果)

堆積したデブリの内部は溶融したU、凝固したU、Zryが複雑に分布していることが分かります(色が示す成分は図1-2に同じ)。

 


原子力発電所の過酷事故において炉心などが融けることで発生する、核燃料と構造物の混合物(燃料デブリ)の組成分布や、このような物質の再臨界の可能性の予測は難しく、原子炉過酷事故時評価や、東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃止措置における課題となっています。過酷事故では、原子炉停止から全電源停止までのわずかな時間差の違いなどで、融けた物質の流れ落ち方や堆積状況などに違いがあることが想定されます。一般的に、わずかな時間差などの状況の違いの影響を考えるためには、計算機による数値解析が有効なツールと考えられます。しかし、現在使われている過酷事故のための数値解析手法では、様々な現象に対する近似や、原子炉の形状などに対しての簡素化が行われており、デブリの組成分布を推定することは困難でした。

原子力機構では、様々な仮定や近似を用いず、また複雑な原子炉の形状をできるだけ正確に再現した上で、溶融物の挙動を取り扱う数値シミュレーションコードJUPITERを開発しました。JUPITERは、物理的/熱力学的に厳密な基本方程式のみを用いて物質の溶融、融けた物質の移動や混合を計算し、デブリの組成分布を推定することができます。

JUPITERを用いて、原子炉圧力容器の下の空間(ペデスタル)への溶融物の堆積挙動の解析(数百秒程度の時間スケール)を行いました。さらに、得られたデブリの組成分布を基に連続エネルギーモンテカルロコードMVPで中性子実効増倍率を求め、再臨界の可能性を調べました。解析では、上面の中心部から密度の大きい順に、融けた二酸化ウラン(UO2)、ステンレス鋼(SUS)、ジルカロイ(Zry)、炭化ホウ素(B4C)をペデスタル内部へ流入させ、底部に堆積する様子を計算しました。図1-2に示すように、最初に流入したUO2は、底部にある2ヶ所のくぼみ(サンプピット)の中で一部固まりながら、底部の床面に広がります(図1-2(a))。その後、他の溶融物と複雑に混ざり合いながら、堆積していくことが分かります(図1-2(b)〜(d))。図1-3は、デブリ内(溶融物を含む)の状態を見るために、ペデスタルの中心断面を可視化した結果です。壁への熱伝導により冷やされることで、壁に近い方からデブリが固まっていることが分かります。また、重いUO2が下に、軽いZryが上に位置し、それらが複雑に分布しています。このような分布は、物理的/熱力学的な基本方程式により、デブリの移動や凝固を計算したことで得られたものです。

これまでの再臨界解析では、デブリ内部は均一に混ざった状態を仮定していました。ここでは、JUPITERで得られたデブリの組成分布を基に、MVPを用いて、注水によりデブリ上部に水がある仮定の下、デブリ中に水を含む場合と含まない場合の中性子実効増倍率を求めました。その結果、非現実的な含水率を想定した場合を除いて、臨界に至らない結果が得られました。

今後は、実験結果との比較による検証と、デブリ堆積挙動について計算の条件を様々に変更した解析を行います。さらにそれらを基にした臨界性解析を実施し、炉内状況の推定と保守性を排除した臨界性評価を通じて、1Fの廃止措置に貢献していく予定です。