1-2 事故初期に放出した2種類の不溶性セシウム粒子

−主成分がケイ酸である粒子形成過程の解明−

図1-4 不溶性Cs粒子と呼ばれる2種類の粒子

図1-4 不溶性Cs粒子と呼ばれる2種類の粒子

TypeA粒子は数ミクロンと非常に小さく、首都圏を含め広範囲で報告されていますが、TypeBは粒径が大きく、1F1北側の限られた場所で見つかっています。

 

図1-5 粒子の体積とCs濃度の関係

拡大図(41kB)

図1-5 粒子の体積とCs濃度の関係

TypeAの比放射能はTypeBに比べ大きいことが判明しました。

 

図1-6 発見された生成途中と推定されるTypeB粒子とエネルギー分散型X線解析(EDS)の結果

拡大図(239kB)

図1-6 発見された生成途中と推定されるTypeB粒子とエネルギー分散型X線解析(EDS)の結果

(a)繊維状のケイ酸化合物が部分的に溶融している様子を確認できます。(b)標準的な断熱材と放射性粒子のうちTypeBの特徴が一致しました。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故では、事故初期の限られた時期に、水に溶けない(不溶性)セシウム(Cs)が放出したケースが確認されました。この不溶性かつ1 µm〜1 mm程度の大きさの粒子の放出は、福島事故固有の現象であると考えられています。

これまでの研究で2種類の不溶性Cs粒子が確認されています(図1-4)。どちらの種類も主成分がケイ酸で、その中にCsが入り込んでいることが分かっています。ケイ酸は水に溶けない(ガラスコップと同じ成分)ため、粒子も水に溶けないものと推定されます。また2種類の粒子のうち、TypeAと呼ばれる粒子は、見つかっている粒子の大きさも数ミクロンです。放射能は弱いのですが、Csの濃度が高いため、検出感度があまり高くないエネルギー分散型X線分析装置を用いてもCsを検出することが可能です。一方、TypeBと呼ばれる粒子は大きさが数百ミクロンあり、肉眼で見ることもできますが、Csの濃度は低いことが確認されています。単位体積あたりの放射能濃度を比放射能といいますが、上記の関係を明らかにするため2種類の粒子を粒子の体積と含まれるCs濃度で図示すると、TypeB粒子の傾きはTypeA粒子に比べ緩やかで、比放射能はTypeB粒子の方が小さいことが明確になりました。また、2011年3月14日未明から放出したと考えられている先行研究の結果(図1-5の●と)とTypeA粒子は、比放射能の関係が一致しました。

比放射能の小さいTypeB粒子は、3月12日の1号機(1F1)水素爆発で飛散したことが判明しています。また、粒子が沈着している場所も、1F1水素爆発直後に汚染された、北側の限られた場所であることが明らかになっています。TypeB粒子を詳しく調べたところ、繊維状のケイ酸化合物が付着している例が確認されました(図1-6(a))。この発見を基に原子炉建屋周辺で使用されているケイ酸化合物を調査したところ、建屋内部で使われていた断熱材の元素組成と、TypeB粒子の構成元素がほぼ一致しました(図1-6(b))。このことから、TypeB粒子については原子炉建屋に充満したCsがケイ酸化合物でできた繊維状の断熱材に吸着し、水素爆発の熱と爆風により収縮・粉砕し、飛散したものと推定されました。一方、TypeA粒子は比放射能が大きいなどの特徴から、生成過程には不明な点が多く、今後の検討課題となっています。