1-3 ステンレス鋼とセシウムの化学反応を解明する

−東京電力福島第一原子力発電所炉心内セシウム分布評価に向けて−

図1-7 Csを付着させたSSの顕微HAXPESによるピンポイントCs化学形分析結果

拡大図(1.02MB)

図1-7 Csを付着させたSSの顕微HAXPESによるピンポイントCs化学形分析結果

水酸化セシウム蒸気と反応させたSS断面の微細組織観察の元素分布(右図)により、Cs付着層のSiとCsが似た分布挙動を示していることから、両者が化合物を形成していることが示唆されました。さらに顕微HAXPES(左下図)の化学形分析により、SS中のSi濃度の違いにより生成するCs化合物の化学形が異なることが分かりました(右図)。今後は、その存在が明らかとなったCs化合物の化学特性を考慮したモデルを構築することで、炉心内のCs分布評価の精度向上に貢献していきます。

 


東京電力福島第一原子力発電所における作業員の被ばくを管理する上では、γ線源の大半を占めるセシウム(Cs)の炉心内分布に関する情報が必要になります。特に、Csが構造材のステンレス鋼(SS)と化学反応を起こして固着するCs化学吸着挙動の評価が重要です。これまで、事故進展解析コードを用いたCs化学吸着量の予測が行われてきましたが、解析コード間で解析結果に大きな差異が見られるなど、不確かさが大きいのが現状です。この原因の一つとして、モデルで考慮するCsの化学形が異なっていることが挙げられています。

Csは、様々な化学形をとり、蒸気圧や水への溶解度が化合物の種類によって大きく異なるため、燃料や炉心内の構造物中に存在するCsがどのような化学形をとるかによって、燃料や炉心内構造物からの放出されやすさや、気相中、あるいは、水相中への移行のしやすさに大きな影響を与えることが考えられます。したがって、炉心内のCs分布の精度を向上させるためには、炉心内構造物に多く用いられているSSに付着したCsの化学形、すなわち、SSとCs蒸気との化学反応を明らかにすることが重要となります。ところが、これまで、SS中に不純物として存在しているケイ素(Si)とCsが化合物を形成していることは分かっていましたが、生成する化合物の大きさが非常に微細なためか、様々なCs化合物の存在が示唆されるなど、はっきりしていませんでした。

そこで私たちは、マイクロビーム放射光を励起光とする硬X線光電子分光装置(顕微HAXPES)と走査型電子顕微鏡(SEM)を組み合わせた分析法を用いることで、ミクロンレベルで存在する化合物を同定するための分析技術開発に取り組みました。また、Cs化合物の化学形については、SS中のSi濃度に影響する可能性が考えられたため、Si濃度の異なる試料を用いた試験を行いました。その結果、これまで明らかになっていなかったSSとCs蒸気との化学反応により生成するCs化合物の同定に成功し、その分布を明らかにしました(図1-7)。すなわち、SS中に微量に存在するSi濃度が高くなると鉄(Fe)の入ったCs化合物(CsFeSiO4)のみではなく、Cs2Si2O5やCs2Si4O9といった組成の異なるCs化合物が生成するようになり、複雑な化学反応が起きていることが分かりました。

今後は、本研究でその存在が明らかとなった様々なCs化合物に対して、その化学特性、すなわち、蒸気圧や水への溶解度等を明らかにしていきます。そして、これらCsの放出移行挙動に影響を与える主要な因子を考慮したモデルを構築することで、炉心内のCs分布評価の精度向上に貢献していきます。



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