図1-28 市街地表面の構成要素ごとの137Cs相対沈着量
図1-29 屋根及び屋上における素材ごとの137Cs相対沈着量
東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故後、陸域における放射性セシウム(Cs)の動態は、森林や河川といった環境において様々な調査がなされてきました。一方、市街地の放射性Csの動態はあまり評価されていませんでした。市街地は草地や畑地といった土壌面のほか、家屋や舗装面など多様な要素で構成されています。そのため、放射性Csの動態は、他の陸域環境と大きく異なると考えられます。そこで本研究では、市街地における放射性Csの分布を評価するため、2015年1月に帰還困難区域に位置する11の建造物とその敷地を対象に、市街地表面の主要な構成要素である建造物の屋根、ないしは屋上と壁、未舗装及び舗装された平坦地における137Csの沈着量を測定しました。事故直後(2011年3月23日時点)の初期137Cs沈着量が異なる調査対象地域間の比較を可能にするため、得られた137Cs沈着量は、隣接する未舗装の平坦地の初期137Cs沈着量で除し、相対沈着量として評価しました。未舗装の平坦地の初期137Cs沈着量は、今回の調査で得た137Cs沈着量から物理減衰を補正して求めました。これは、1F事故後の調査により、未舗装の平坦地に沈着した137Csの多くはその場に残り、水平方向への流失が非常に少ないことが報告されているためです。
構成要素ごとの137Cs平均相対沈着量を比較した結果、舗装面は未舗装面の約20 %程度の値を示し、他の構成要素においても未舗装面の10 %未満の値が示されました(図1-28)。本研究は除染を行っていない帰還困難区域内で実施しています。そのため、以上の結果は、市街地に降下した放射性Csの大部分が、除染を行わなくても初期降下時の流失及びその後の降雨に伴う流失により速やかに市街地から除かれたことを示唆しています。
図1-28に示された構成要素のうち、屋根と屋上の相対沈着量は比較的大きな変動係数を示しました。屋根の素材は多岐にわたりますが、多孔質な素材は137Csをよく吸着することが、ヨーロッパでの研究により報告されています。そこで、図1-29では屋根と屋上について素材ごとの相対沈着量を比較しました。日本の屋根、屋上素材についても、表面が滑らかな釉薬瓦や金属スレート、樹脂、防水シートの相対沈着量は顕著に低い一方で、表面に塗装処理を施していないモルタルで高い相対沈着量が得られました。以上のことから、市街地に降下した放射性Csの多くは、事故後の約4年間で流失しましたが、その残存性は構成要素の素材に依存することが分かりました。
本結果は今後、除染計画の策定や、市街地における空間線量率のシミュレーションに役立つことが期待されます。