図1-26 地形の起伏による測定への影響
図1-27 地形の起伏を考慮したデータ解析手法と結果
航空機モニタリングは、対地高度約300 mの上空から広域なエリアに対して、地上における空間線量率や地表面に沈着した放射性核種濃度を迅速に測定することができる、モニタリングツールの一つです(図1-26(a))。航空機モニタリングでは、有人ヘリコプター以外に、無人飛行機やドローン等様々な飛翔体が使用されています。航空機モニタリングによって得られたデータは、汚染状況の把握をはじめとする様々な用途に使用されています。その中でも、近年、住民の被ばく線量の推計等にも用途が拡大されていることから、データの精度を向上させることは重要な課題の一つとされています。
現在までに日本国内で実施されている航空機モニタリングでは、測定されたデータを解析する際に、測定対象の地形を全て平坦であるとみなして解析が行われています。地形に起伏があることによって、同程度の汚染密度にもかかわらず、測定される計数率が異なるため、地上の空間線量率を過大・過小評価してしまう可能性があります(図1-26(b))。日本の場合、原子力発電所周辺の地形が比較的平坦である欧米と比べて、国土に対して山地が占める割合が多いため、その影響を把握するとともに、解析誤差の低減方法を開発しています。
航空機モニタリングにおける解析では、計数率C(cpm)を空間線量率換算係数CD(cpm/(µSv/h))で除することによって地上1 m高さの空間線量率D(µSv/h)が算出されています。
D = C/CD
地形に起伏がある場合、CD値が測定対象となる地形に応じて異なるため、この影響を考慮した解析を行いました。図1-27(a)に示すように、測定点直下の数値標高マップから三角面線源を組み合わせた線源マップを作成し、線源マップを構成する小三角形面線源群から放出されるγ線の上空300 mにおける線束の計算値を基に、各測定点の地形に応じたCD値を用いて解析を行いました。
福島県内の217地点における航空機モニタリングと地上測定により得られたDを比較することによって、地形効果を考慮した場合と考慮しない場合の精度を比較・評価しました。評価には、図1-27(b)に示す航空機モニタリングと地上測定値との比の頻度分布を使用しており、—線で示すような分布が最も理想的な分布となります。頻度分布の比較から、地形影響を考慮した手法を用いた場合、従来法を用いた場合の平均値で1.75に対して1.12、分散は0.53に対して0.33となり、より地上測定値に近い値が得られる結果となりました。
本研究により、地形影響を考慮することによって、データ解析精度が向上することが示されました。将来的に国内で実施されている航空機モニタリングへの実装を目指します。