図1-23 無人ヘリによるモニタリングイメージ
図1-24 無人ヘリとコア土壌の測定結果
図1-25 Csの深さ分布の推定βeff と実測βeff の比較
東京電力福島第一原子力発電所事故から7年経過し、土壌表面に沈着した放射性セシウム(Cs)は、降雨、天地返しと呼ばれる除染工法及び動物による掘り返し等で、深い場所に高濃度で存在するケースがあることが分かっています。土壌深くの放射性Csは、植物の根から吸収される恐れがあり、その範囲を簡便に地表で検知できる技術が求められていました。また、そのような技術は、除染する深さを決定する上でも有用です。私たちは、事故後から、無人ヘリ(R-Max G1、ヤマハ発動機株式会社)を用いた放射線モニタリング技術の開発を行っており、この技術は、広い範囲の放射性Csの分布状況を迅速かつ簡便に測定することを可能としてきました。
今回、上空で取得できるγ線スペクトルの特徴から、土壌中放射性Csの深さを測定する技術の開発に成功しました。図1-23に示すような理論が正しいのか、直接γ線領域及び散乱γ線領域の割合と、同じ場所の土壌サンプルによる深度分布データとの比較実験を圃場で実施しました(図1-25)。この圃場は、南部を除いて反転耕と呼ばれる土壌の天地返しを行っています。モニタリングで得られたγ線スペクトルから、散乱γ線領域(50〜450 keV)及び直接γ線領域(450〜760 keV)の計数率比(Ratio of Peak and Compton:RPC)を計算しました。放射線検出器には、137Csに対してエネルギー分解能が良好なLaBr3(Ce)シンチレータを用いました。土壌では、採土器を用いて約60 cmのコアサンプルをランダムに採取し、実験室で放射性Cs濃度を測定した結果から、土壌中放射性Csの分布深さを求めました。分布深さは、実効的重量緩衝深度(βeff (g cm-2))というパラメータで表すことができます。このパラメータの値が大きいほど、放射性Csの土壌中分布深さが大きいことを意味しています。
図1-24に示すように、RPC及びβeff の間には良好な正の相関がありました。その相関式から、図1-25に示すように圃場全体の推定βeff マップを作成しました。圃場の全域を無人ヘリで測定した結果に、土壌サンプリングの結果(丸印)を併せて示しています。このように広い圃場の土壌中放射性Cs分布を、無人ヘリによるモニタリングで推定することができました。これらの技術は、今後、広範囲の帰還困難区域の除染を効率的に進める上でも、有効な手段となると考えられます。
本研究は、独立行政法人家畜改良センター及び東京大学との共同研究「圃場空間線量モニタリングと土壌から牧草への放射性セシウムの移行環境の解明」の一部として実施した成果です。