1-13 河川上流域の放射性セシウム動態を予測する

−事故後約5年間での土砂、放射性セシウムの移動解析−

図1-30 解析対象領域の三次元構造モデル

拡大図(818kB)

図1-30 解析対象領域の三次元構造モデル

赤枠は図1-31の表示範囲を示します。GETFLOWSでは三次元的にモデルを作成し、各格子に透水係数や、マニング係数等を付与し、地表流と地表水を同時に計算します。得られた水循環場から表層における土砂、放射性Cs輸送の計算を実施し、環境中での放射性Cs動態を予測します。水平解像度は約10 mです。

 

図1-31 2011年5月〜2015年12月の期間における(a)侵食、堆積量及び(b)残存137Csインベントリ割合

拡大図(363kB)

図1-31 2011年5月〜2015年12月の期間における(a)侵食、堆積量及び(b)残存137Csインベントリ割合

田畑を含む森林流域から河川を通じて流出する土砂、放射性Csの再分布の解析結果を示します。土壌侵食は河川近傍や森林のガリで大きく、それに対応して137Cs残存割合も低下しています。

 


東京電力福島第一原子力発電所事故によって、陸域に沈着した放射性セシウム(Cs)は、粘土鉱物を含む土壌粒子に強く吸着する特性があることから、土壌表層に今なお大部分が残っています。流域内の放射性Cs動態を予測するにあたり、重要なのは台風等の降雨による表層土壌流亡ですが、降雨時以外を含め、流域内の放射性Cs動態を計算するには、地下水と地表水を計算する必要があります。そこで本研究では、原子力機構の調査サイトの一つである川内村荻野沢川流域を対象に、土砂及び放射性Csの移動を考慮した流域水循環モデルGETFLOWSを用いた数値解析を行いました(図1-30)。

2011年5月〜2015年12月の期間における侵食、堆積量及び残存137Csインベントリ割合を図1-31に示します。河川近傍や森林のガリでの侵食量及び137Csのインベントリ低下割合が大きく、一方、河川から離れた森林での侵食はほとんど生じておらず、137Csインベントリの低下割合は小さいことが分かりました。つまり、河川から離れた森林においては、物理的減衰が一番の低下要因であることが分かりました。この期間に河川へ流出した137Csの発生源を確認したところ、河川近傍からの寄与は、河川から離れた森林からの寄与に比べ1桁程度大きい結果でした。河川近傍において侵食量が大きい理由として、降雨により飽和した表層土壌に表面流が生じ、侵食が促進されることが推察されました。侵食しやすい河川近傍で137Csインベントリが低下すること、また深度方向への137Csの移行によって、今後河川への137Cs流出量は低下することが期待されます。一方で、除染や帰還に伴う耕作再開などにより、侵食量が増大することから、それに伴って流出する放射性Csの下流への影響を注視していく必要があります。

今後、本解析法の検証と改良を進め、土砂由来の放射性Cs流出のみならず、生物移行性の高い、水に溶けた放射性Cs流出の再現解析を行い、メカニズムの解明に役立てていきます。