1-14 海底における放射性セシウムの分布の探求

−海底地形に規制される海底土の種類と放射能との関係−

図1-32 海底地形

図1-32 海底地形

図1-33の試料採取地点を示しています。水深は沖に向かって深くなっていきますが、地点Bの東側は崖になっていて急に水深が浅くなっています。特に、地点Bは南〜東〜北側は崖に囲まれている凹状の窪地です。なお、調査全域から一部を抜粋しています。

 

図1-33 地点A及び地点Bの海底土の放射性Cs(137Cs)の鉛直分布

拡大図(89 kB)

図1-33 地点A及び地点Bの海底土の放射性Cs(137Cs)の鉛直分布

図1-32の試料採取地点を示しています。(a)粒径が大きい地点Aにおける測定例、(b)粒径が小さい地点Bにおける測定例です。

 


東京電力福島第一原子力発電所の事故により地表に沈着した放射性セシウム(Cs)の一部は、山地森林から貯水池や河川を経て河口・沿岸域に流入します。河口・沿岸域では、流入した放射性Csが堆積する場所とその程度を理解することは、海産物への放射性Csの影響評価において重要となります。河川から流入する放射性Csのうち、土砂に吸着した放射性Csの堆積の程度は、堆積場の状況によって異なると考えられます。そこで、海底土の放射性Csの分布と海底地形の関連を調査しました。

図1-32に、音波測量により得られた海底地形図を示します。調査の結果、調査対象とした福島県の河口・沿岸域のうち、沖合5 kmまでの海底の半分以上は海底土が堆積していない岩盤が広く分布し、海底土の分布域は海底面全体の約4割であることが分かりました。海底地形の特徴としては、沖合いに向かって一様に水深が緩やかに深くなる領域(例えば図1-32の地点A付近から沖合い)と、高さ数mの崖と接する領域(例えば図1-32の地点Bの周辺)の2種類に大別されることが分かりました。

海底土が分布する図1-32に示した地点A及び地点Bで、海底面から最大約1 m程度の深さの柱状の海底土を採取し、深さ方向に1〜2 cmごとに放射性Cs濃度や粒径を計測しました(図1-33)。沖合いに向かって一様に水深が緩やかに深くなる領域の海底土の大部分は、図1-33(a)の地点Aに示すような、砂質の粒子(0.1〜0.5 mm)から構成されています。また、1 m2あたりの放射性Csの堆積量は、近くに河口を持つ河川の河川敷などでの堆積量と比べて、2桁から1桁程度少ないことが分かりました。一方、図1-33(b)の地点Bに示すような崖に接する領域では、比較的細粒(シルト相当:0.004〜0.063 mm)の粒子が多くなります。また、放射性Csの堆積量は地点Aに示すような領域よりもやや多く、特に地点Bの周囲で崖に囲まれた凹状の窪地では、河川敷などで確認される堆積量と同等の地点も確認されました。

地点A及び地点Bで海水の流れの速さを計測したところ、地点Bは地点Aと比べて有意に流れが遅いことが分かりました。これは、窪地を形成する崖が海水の流れを妨害するため、流速が低下したものと考えられます。つまり、地点Bのような環境では、流れが停滞することによって、放射性Csがより多く吸着した細粒の粒子が沈降しやすくなり、放射性Csの堆積が促進されたと考えられます。しかし、海底地形の調査の結果、地点Bのような地形は海底面全体の約0.2 %に過ぎないことから、このような地点は極めて限定的であるといえます。

これらの成果は、海洋における放射性物質だけでなく一般的な汚染物質の挙動の解明に役立つとともに、環境中での予測シミュレーションの精度向上に重要な知見となると考えられます。