1-16 効果的な森林除染の条件とは

−除染による空間線量率の低減効果をシミュレーション−

図1-36 森林土壌の斜面の数が1(単一斜面)の場合の評価体系

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図1-36 森林土壌の斜面の数が1(単一斜面)の場合の評価体系

空間線量率の評価点として、森林と居住区域の境界である林縁(1A)、林縁から居住区域側へ5 m(1B)及び10 m(1C)離れた点を設定し、3点それぞれに対し、屋外にいる成人を想定した高さ1 m及び2階建て住居を想定した高さ4 mを設定しました。

 

図1-37 A0層に放射性Csが多く存在し、かつ汚染が平面的に不均一な場合の断面図

図1-37 A0層に放射性Csが多く存在し、かつ汚染が平面的に不均一な場合の断面図

A1層の約2倍の放射性CsがA0層に存在し、居住区域に近い場所の森林土壌の放射性Cs濃度に比べて離れた場所の森林土壌の放射性Cs濃度が3倍となっている場合を想定し、林縁から20 m以遠の汚染が、林縁から20 mまでよりも3倍高い設定にした例です。

 


東京電力福島第一原子力発電所の事故では、放出された放射性セシウム(Cs)によって森林が汚染されました。放射性Csは、森林土壌に留まり、これを除去することで空間線量率の低減が期待されます。しかしながら、このような除染を森林全体に適用してしまうと、膨大な除去土壌が発生し、その管理や費用で多大な負担が生じます。また、そのような除染によって、森林土壌が流出し、水源かん養や災害防止といった森林の有する多面的な機能が損なわれる可能性が高まります。このため、林野庁では森林除染の方法として、落葉や森林土壌の表層の除去を段階的に実施することを推奨しています。

本研究では、そのような除染方法として、森林土壌の表面からA0層(落葉などの堆積有機物層)とA1層(土壌部分の層)を放射線源と仮定し、そのA0層のみを除染した場合の居住区域の空間線量率を、三次元輸送計算コードMCNPを用いて解析しました。線源の森林土壌として斜面の数が1の場合(図1-36)と、三方を森林に囲まれた一軒家を想定した斜面の数が3の場合を設定しました。この際、森林土壌の傾斜角や土壌中の放射性Csの量が異なるケース、森林土壌の汚染が平面的に不均一なケースについても解析しました。また、全てのケースに対し、どの範囲のA0層を除去した場合に居住区域のどの地点の空間線量率が、どの程度低減するかについて解析しました。

その結果、斜面の数や傾斜角によらず、A0層を除去しても、居住区域(特に住居の2階)の空間線量率は林縁に比べると下がりにくいことが分かりました。

また、A0層に多くの放射性Csが存在し、その汚染が均一である場合は、林縁から20 mまでのA0層を除去するのが効果的ですが、例えば図1-37のように、林縁から20 mまでの森林土壌中の放射性Cs濃度に比べて、より離れた場所の放射性Cs濃度が3倍となっているような場合、居住区域の空間線量率を効果的に低減するためには、林縁から40 mまでのA0層を除去する必要があることが分かりました。

このように、シミュレーションを行うことによって、汚染の分布に応じた効果的な森林除染の方法を検討することが可能となります。