1-5 汚染水処理により発生する廃棄物を調査する

−炭酸塩スラリーの詳細な分析−

図1-11 炭酸塩スラリーの外観写真

図1-11 炭酸塩スラリーの外観写真

 

図1-12 試料の電子顕微鏡像と反応実験の方法

図1-12 炭酸塩スラリーの拡大画像

図より、粒子径分布測定を行った結果、粒子径が数µm程度の粒子が多いことが分かりました。

 

図1-13 放射化学分析結果

拡大図(14kB)

図1-13 放射化学分析結果

4種類の炭酸塩スラリーの放射化学分析結果です。スラリー中では90Srの濃度が一番高いことが分かりました。
(白抜きのバーは、検出下限値を示します。検出下限値は測定核種ごとに異なります。)

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)では、汚染水中の放射性物質の除去を目的として、多核種除去設備などの汚染水処理設備が稼働しています。汚染水処理に伴いスラリーや使用済み吸着材といった二次廃棄物が発生しています。このような二次廃棄物は、通常の原子力発電所の運転では発生しないため、安全に保管し処理・処分する方法を新たに検討する必要があります。そのためには、廃棄物の性状を明らかにすることが重要です。

多核種除去設備から発生する二次廃棄物のうち、炭酸塩沈殿工程から発生する炭酸塩スラリーは、廃棄物中の放射性物質の量や種類が多く、発生量も多いため、廃棄物の中でも優先的に分析する必要があります。そのため、1Fの多核種除去設備から発生した炭酸塩スラリーが保管されている高性能容器(HIC)より、発生時期や採取位置を変えて4種類採取し、原子力機構にて各種分析を行いました。

採取した炭酸塩スラリー(図1-11)は、10 mLをPETバイアルに入れた状態で10〜100 mSv/hほどの高い線量率(容器表面の線量率)でした。

マイクロスコープにより炭酸塩スラリーの拡大画像を撮影(図1-12)し、炭酸塩スラリーの粒子径分布測定を行った結果、粒子径が数µm程度の粒子が多いことが分かりました。

誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)装置を用いた元素濃度分析の結果、マグネシウム(Mg)及びカルシウム(Ca)が炭酸塩スラリーの固体成分中のそれぞれ20質量%程度であり、炭酸塩沈殿工程での除去対象であるMg及びCaを除去できていることが分かりました。

炭酸塩スラリーの放射化学分析の結果、主に図1-13に示す8核種が検出され、最も放射能濃度の高い核種はストロンチウム-90(90Sr)であることが分かりました。また、炭酸塩スラリーから発せられる高線量の放射線は、90Srとその娘核種であるイットリウム-90(90Y)由来の放射線であるということが分かりました。

これらの分析結果は、炭酸塩スラリーの処理処分方法の検討に役立てられます。

本研究は、経済産業省平成25年度補正予算「廃炉・汚染水対策事業費補助金(事故廃棄物処理・処分技術の開発)」及び平成26年度補正予算「廃炉・汚染水対策事業費補助金(固体廃棄物の処理・処分に関する研究開発)」の一部です。


●参考文献
Fukuda, Y. et al., Characterization of Carbonate Slurry Generated from Multiple Radio-Nuclides Removal System in Fukushima Daiichi Nuclear Power Station, Proceedings of 2017 International Congress on Advances in Nuclear Power Plants (ICAPP 2017), Fukui and Kyoto, Japan, 2017, paper 17077, 10p., in CD-ROM.