1-6 汚染水処理後の二次廃棄物等を安全に長期保管する

−事故対策・廃止措置を随所に支える放射線分解研究の進展−

図1-14 放射線分解による水素(H2)生成と水中での反応(模式)

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図1-14 放射線分解による水素(H2)生成と水中での反応(模式)

平常時の炉心の密閉条件ではH2は水中に溶存していますが、事故時には開放状態になってしまい、ほとんど大気中に放出されます。放射線①で生成したH2②は液面に移動する際③、同じく生成したラジカルに捕らえられます④が、海水の塩分はこの捕捉をブロックしてしまいます④’。

 

表1-1 1F廃止措置で重要なH2発生への影響因子

表1-1 1F廃止措置で重要なH2発生への影響因子

 

図1-15 H2発生に及ぼす(a)海水塩分の影響と(b)固体共存(添加)の影響(試料高さ一定(1 cm)条件)

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図1-15 H2発生に及ぼす(a)海水塩分の影響と(b)固体共存(添加)の影響(試料高さ一定(1 cm)条件)

海水(a)では塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)の順に影響して、純水に比べてH2発生量が大きくなります。浸水したゼオライト(b)では水の入る場所の粒子内の細孔①、粒子間の隙間②の順に影響して、浸水時の水分だけでは説明できないH2発生の促進が確認されます。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故直後から、私たちは汚染水処理や二次廃棄物などの保管方策を中心に、冷却水に含まれる海水の塩分を主要な影響因子としてセシウム吸着、水素(H2)発生、構造材の腐食、ガスや熱の流動といった一連の研究開発を進めて、そこで得た成果を適時、東京電力や関連メーカーに安全対策上必須の情報として提供してきました。また、中長期ロードマップに基づく1F廃止措置の中で生じた放射線関連などの諸問題に対してもその都度、それらの原因究明への要請に迅速に応えて協力してきました。

その中で、H2発生は建屋損壊などの事故拡大の原因となった爆発と結びついて、廃棄物処理・処分を含む廃止措置(放射性物質管理)において最も危惧すべき現象と考えられています。その発生源の中で、特に水の放射線分解は核分裂生成物や超ウラン元素の放射性物質からの放射線によって起こるため、数百度以上の高温を必要とせず、原子炉内だけでなく、放射性物質が存在する全ての場所で継続的にH2を発生させることができるため、今も廃止措置の各段階に応じた研究を進めています。

放射線による水の分解でH2が生成してから大気中に放出されるまでの現象(図1-14)は、水—金属反応などのほかのH2発生源と違って、様々な過程を経て起こるため、H2発生は多くの条件、因子の複合的な影響を受けます。このため、基礎研究で扱わない実際の材料や実機を再現した条件を基にして、1Fで鍵となるH2発生への影響を科学的に見いだしてきました(表1-1)。

実験結果の代表例を図1-15に示します。事故時に投入された海水は純水と同様に原子炉を冷却しますが、海水でのH2発生は純水よりも大きくなります(図1-15(a))。これは塩辛さを生む塩分の塩化物イオン(Cl)と臭化物イオン(Br)が水中のH2消費を抑えてしまうためです。また、浸水したゼオライト試料から発生するH2は、試料を占める水(重量%)からのH2だけでは説明できません(図1-15(b))。これは水の分解生成物とゼオライトの固体表面との相互作用のためで、この影響を考慮することは従来の施設安全評価の向上につながります。

本研究では、材料の腐食を及ぼす過酸化水素(H2O2)やその分解で生じる酸素(O2)についても調べています。