図1-16 小型・軽量コンプトンカメラの外観
図1-17 1F3号機タービン建屋内通路における放射性物質の可視化結果
図1-18 放射性物質の三次元分布図
“見えない放射線を見る” —これは、放射線から人を守ることはもちろん、その場所の汚染状況を把握するためにも重要です。東京電力福島第一原子力発電所(1F)建屋内では床面や壁、天井、機器、がれき等の様々な物体に放射性物質が付着しており、汚染箇所が三次元的に存在しています。また、建屋内には作業員が侵入できない、長時間作業が実施できないといった放射線量率が高いエリアが存在します。このような高線量率環境において三次元的な汚染の分布を遠隔で測定することにより、汚染源を特定し、効率的な除染に役立てることができれば、廃炉作業の一層の加速につながります。今回、1Fの建屋内部に飛散した放射性物質を三次元的に可視化するための手法を開発しました。
飛散した放射性物質による汚染の分布を測定するための装置として、目に見えない放射性物質を可視化できるガンマカメラという放射線測定器が有望視されています。しかし、従来のガンマカメラは数kg〜数十kgと重いため、廃炉現場での活用が容易ではありませんでした。
原子力機構は、早稲田大学の片岡らが開発したコンプトンカメラ(ガンマカメラの一種)をベースに線量率が高い現場でも持ちこみやすく、遠隔機器にも搭載可能なように約680 gまで小型軽量化したコンプトンカメラを開発しました(図1-16)。小型化を達成したことにより、従来のコンプトンカメラでは大きな遮へい体が必要となる高線量率環境においても、遮へい体を小さくし、可搬性を保ったまま測定を行うことができます。今回このコンプトンカメラを用いて、東京電力の協力のもと、1F3号機タービン建屋内通路で汚染分布の測定試験を実施しました。その結果、空間線量率が0.4〜0.5 mSv/hの高線量率環境において、表面線量率が最大3.5 mSv/h程度の局所的な汚染源の撮影に成功しました。図1-17は、光学カメラで取得した測定現場の写真に、得られた汚染分布のイメージを重ねて放射性物質(主として137Cs)を可視化したものであり、測定の所要時間は1分未満でした。
さらに、レーザー光を利用した測域センサーを用いて測定現場の三次元モデルデータを取得し、ここにコンプトンカメラで取得した汚染分布のイメージを重ねることにより、汚染分布を三次元的に描画することに成功しました(図1-18)。測定環境の壁面及び床面において、周囲に比べて線量率が高い2ヶ所の汚染源が映し出されています。この汚染分布図は、実環境の寸法や外観を反映していることから、作業員が汚染源の在りかをこの分布図を用いて視認することにより、注意喚起に伴う被ばく線量の低減や、除染計画の立案に役立つものと考えています。
現在、小型クローラーロボットへの本システムの搭載を進めており、併せて遠隔で1F原子炉建屋内部の三次元汚染分布を測定するためのシステムの開発を進めています。