4-7 過酷事故時における放射性核種の動きを見定める

−原子炉内における放射性核種の放出・移行挙動を評価−

図4-14 過酷事故時において放射性核種が経験する温度履歴を模擬した実験により得られたSr及びUの放出割合と低温領域までの移行割合

図4-14 過酷事故時において放射性核種が経験する温度履歴を模擬した実験により得られたSr及びUの放出割合と低温領域までの移行割合

SA時において、放射性核種が炉心燃料からの放出や炉内の移行する際に経験する温度履歴を模擬して、使用済燃料を加熱し、燃料中のSr及びUの初期量に対しての放出割合と低温領域までの移行割合をそれぞれ算出しました。これまで、限られた情報からSA時でもほとんど放出されないと考えられていたSrやUは、それぞれ水素雰囲気や水蒸気雰囲気において、燃料からの放出が促進されることが分かりました。また、Srは有意量が低温領域まで移行していくことが分かりました。この結果は、Srは格納容器等まで移行する可能性を示唆するものです。

 


軽水炉の安全性向上のためには、過酷事故(SA)時に高温の炉心燃料から放出され、圧力容器等の炉内高温領域を経て、格納容器や環境に放出される放射性核種の挙動(放出・移行挙動)を詳細に把握することにより、公衆被ばくの評価を精度良く行う必要があります。この放射性核種の放出・移行挙動の把握は、線源となる放射性核種の炉内分布を知るためにも必要であり、東京電力福島第一原子力発電所(1F)等の廃炉作業計画立案や工法選定のためにも役立ちます。放射性核種の放出・移行挙動は、化学挙動、すなわち「放射性核種がどのような化学反応を生じてどのような化学形態となるか」に依存します。このため放射性核種の化学挙動を体系的に評価してデータベース化・モデル化するための基礎基盤研究を行っています。

SA時には主に公衆被ばくの観点でセシウムやヨウ素が重要となりますが、1F事故によりこれまでほとんど原子炉の炉心から放出されないと考えられていたストロンチウム(Sr)やウラン(U)等も、発熱性、放射線毒性等の観点から重要となることが分かりました。そこで、これらの放射性核種も含めたデータベースを構築するために、国際協力により実験を行い、炉心燃料からの放出や炉内移行挙動に関するデータや知見を取得しました。

実験においては、これらの放射性核種の化学挙動に大きく影響を与える雰囲気条件に着目し、水蒸気を含んだ雰囲気(水蒸気雰囲気)条件のみならず、炉内構造物の酸化等により生じ得る水素を含んだ雰囲気(水素雰囲気)条件も対象としました。また、使用済燃料を試料として使用し、SA時にこれらの核種が放出・移行する際に経験する温度履歴を模擬することにより、実際の環境に近い条件で実験を行いました(図4-14)。使用済燃料を約2500 Kまで加熱し、放出されて低温領域まで移行するまでの間に装置に沈着したSr、U等の定量分析を行い、使用済燃料からの放出割合や低温領域までの移行割合を算出しました。

その結果、SrやUは、それぞれ水素雰囲気及び水蒸気雰囲気において多量に放出することが分かりました(図4-14)。また、化学平衡計算等による解析の結果、SrやUは使用済燃料中で金属SrやUO3等の揮発性の化学形態となるため、放出が促進されることを明らかにしました。さらに、有意量のSrは低温領域まで移行していくことが分かりました。この結果は、SA時の炉内の雰囲気条件によっては、Srは格納容器等まで移行する可能性を示唆するものです。

今後は、Sr等の放出・移行時の化学挙動に関する化学反応等の詳細データを取得し、化学挙動のデータベースの拡充・モデル化を進めていきます。

本研究は、仏国CEAとの共同研究によって得られた成果です。