図7-15 実験装置及び実験状況
図7-16 DSC曲線の比較と反応中の観察結果
ナトリウム冷却高速炉では、冷却材であるナトリウム(Na)が漏えいした場合の対策として、化学的に活性なNaと構造コンクリートが直接接触することによる化学反応を防止するために、鋼製のライナを設けています。しかし、ライナが破損するような過酷な事故を想定した場合、Na-コンクリート反応が発生することが懸念されます。この反応は、発熱反応であり、コンクリートを浸食するとともに可燃性ガスである水素が発生することから、これらの化学反応挙動を評価することが重要になっています。
このため、これまでに国内外で様々な実験研究が行われ、本反応に関するデータが取得されてきましたが、複雑な現象であることから十分に反応機構を解明するには至っていません。そのため、化学反応動力学的観点から支配的な化学反応を特定し、機構論的に評価できる手法を構築しています。そこで、反応挙動の基礎的な情報を得るために構造コンクリートの主成分の一つであるシリカ(SiO2)とNaの反応を対象とした熱分析を実施し、得られたデータより速度論的挙動を評価しました。熱分析では、化学的に活性なNaを扱うため、アルゴン雰囲気のグローブボックスに設置した示差走査熱量計(DSC)装置を使用しました(図7-15)。サンプルとして、Na若しくは副次的な反応で生成する水酸化ナトリウム(NaOH)や酸化ナトリウム(Na2O)とSiO2とを混合させたものを用い、昇温速度3〜10 K/minで最大1073 Kまで加熱しました。図7-16(a)は、SiO2とNa若しくはNa化合物との反応に対するDSC曲線の比較を示したものです。この結果から、NaOHあるいはNa2OとSiO2の反応は、いずれも約600 K以下で開始していますが、NaOH-SiO2反応ではNaOHの融解(約583 K)直後にNaOH融液とSiO2の固液反応によるものと思われる急激な発熱ピーク(●)が出現し、劇的な反応速度論的挙動が示されるとともに、容器からの試料の噴出が観察されました(図7-16(b))。これは、反応により生成する水蒸気の系外への放出が急激に起こることによるものと考えられます。一方、Na–SiO2反応の反応開始温度は、NaOHあるいはNa2OとSiO2の反応に比べて100 K以上高い温度を示し、NaOHとSiO2の反応に比べて比較的緩やかな速度論的挙動により反応が進行するものと考えられます。昇温速度3〜10 K/minに変化させた試験結果から、Na–SiO2反応とNa2O–SiO2反応では、昇温速度の増大とともに反応開始温度のピークが高温側にシフトする速度論的特徴が見られたため、速度論的評価手法により活性化エネルギーを求めました。その結果、Na–SiO2反応は約231 kJ/mol、Na2O–SiO2反応は約106 kJ/molとなり、Na-SiO2反応はNa2O–SiO2反応よりも相対的に遅い傾向にあることが分かりました。なお、NaOH–SiO2反応は、上述のとおり、他の反応よりも劇的に速いことを確認し、同反応が支配的な反応機構であるとの見通しが得られました。
今後は、SiO2以外のコンクリートの主成分とNa若しくはNa化合物の反応挙動を把握するための試験を進め、これらの化学反応挙動を機構論に評価できる反応挙動評価手法を構築していく予定です。
本研究は、広島大学との共同研究「平成26年度化学反応速度論解析による化学反応メカニズムの解明研究」、「平成27年度ナトリウム-コンクリート反応の速度論に関する研究」、「平成28年度ナトリウム-コンクリート反応機構に関する研究」の成果の一部です。